日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

Twitterタグなし短歌05(20201217-20220403)

1.
締め切りは歩いてこない気づいたら背後に回り込まれ刺される
 
2.
四百年後も変わらずに星を見て憎しみ合って愛し合うだろう
 
3.
ああ秘書が勝手にやったことにして実存したい秋の夕暮れ
 
4.
天皇は神でないためお辞められお生まれた日は平日となる
 
5.
凶暴な心を持った凶暴な栗鼠の齧った跡がそこらに
 
6.
初夢は初夢を見る夢だった ところでここは現実ですか?
 
7.
死ぬまでにやることリストにきりはなくまずはあなたに寄付のお願い
 
8.
自販機が壊れたみたい「あたたか〜い」押すと出てくる「つめた〜い」平和
 
9.
ごめんねと真っ赤に染まる鴨川に石を投げ込むあなたの背(せな)よ
 
10.
狂ってる腕時計を嵌め僕たちは狂った世界に踊るしかない
 
11.
大丈夫お金も時間もないけれど主権は僕らの手の中にある
 
12.
このあいだ件(くだん)を見たよ なに言ってるか分からんから焼いて食べたよ
 
13.
人間は可愛いですね子供らに自作自演の歌うたわせて
 
14.
ファミレスで「作中主体」と書いとけば作者の俺は呼ばれない回
 
15.
もし僕が架空の野良猫作り出し釣ったら君は怒るだろうか
 
16.
清潔になったこの国妖怪も野良獅子舞も見なくなったね
 
17.
いやに静かなタイムラインだそういえばトランプはもういないんだっけ
 
18.
カービィに世界が吸い込まれたことに誰も気づかぬままみぞれ雨
 
19.
お金にも名前があると役に立つロビンフッドミセス・ワタナベ
 
20.
脱炭素いきつく先は魂を水素に換えて宇宙へと発つ
 
21.
「その星が壊れていても構いません」宇宙を回る廃品回収
 
22.
ああ、めんど。豆腐の湯通しこんにゃくのアク抜きマイナンバー申請
 
23.
スーパーの入り口の除菌アルコールで喉を潤す練馬区の夜
 
24.
永遠が消えてしまった空き地ではIKEAの家族の笑い声がす
 
25.
喉仏デカ男という名にしておけば焼かれる前から拝まれる日々
 
26.
春うらら鳩がわたしの顔を見て吐き戻しする豊島園
 
27.
失って初めて気づく寂しさよ祝日の日は夕刊がなく
 
28.
後影が桜吹雪に消されてもワニを忘れた僕らは気づかず
 
29.
手始めにインターネットを燃やします。インターネットは神聖なので
 
30.
生きるより大事なことに気づけたらあとは散りゆくのみさくらばな
 
31.
春なのでエヴァでもなんでも乗りますよあの巨大なやつぶっ殺せばいい?
 
32.
蛍光灯パチパチしながら歌い出すASIAN KUNG-FU GENERATION
 
33.
シン・メリーゴーランドの君よ、僕はまだ普通のメリーゴーランドにいる
 
34.
僕の言う“きみ"とは全部神様のことです つまりそういうことです
 
35.
ちょうどよいタイミングがあり柔軟剤入れつつ思う今夜死のうと
 
36.
さくらさくら秒速5センチメートルで追いかけてるのに追いつけなくて
 
37.
淡き春に花かんむりの作り方を教わった気がしてる公園
 
38.
(王子は二度と現れなかった)いつまでもしあわせにねむりつづけましたとさ
 
39.
通知音「からあげクンの誕生日」つまりは鶏(とり)の命日のこと
 
40.
雨すごい誰も頼んでいないのにこんなに降っているのはすごい
 
41.
駅前の高級食パン屋が潰れ中級くらいのパン屋が跡地に
 
42.
真っ青なアイスラッシュを売っているタリーズを探す童話みたいに
 
43.
月曜の黒い数字が重なってぷよぷよみたいに消えないかなあ
 
44.
図書館に購入リクを断るる「世界百名山」全三巻
 
45.
人々が酒を飲むなか僕だけがグリーンランドの豚を見ている
 
46.
肝臓の数値は下がらずビットコインの価格はこんなに下がっているのに
 
47.
石ころを蹴っ飛ばしつつ海へ行く独りぼっちは、寂しいもんな
 
48.
昔よく見ていたアニメのエンディングが流れれば傷の癒えてないこと
 
49.
春深しDMMで購いし書籍を経費にする面映ゆさ
 
50.
週末と連休前と月末が合わさりエクゾディアが放たれる
 
51
ふぁっくという言葉は室町よりありて愛するよりも歴史の長し
 
52.
メルカトル図法で描いた感情がクソデカすぎて笑ってしまう
 
53.
終わらない緊急事態宣言より数限りないLOVEをください
 
54.
君たちはトロッコ問題解いてなよ僕は廃線に寝そべってるよ
 
55.
1111111111111111111
(19の数字の1の立ち並ぶレピュニット素数の森の誘い)
 
56.
ウルトラマンみたいに彼は三分のピロートークで寝てしまいたり
 
57.
Amazonで買えないものは不動産・銃・病原菌・鉄・ダンボー
 
58.
井の頭線のどこかの元カレの住む急行の止まらない駅
 
59.
言葉は気導で感情は骨導で 十五光年の間(ま)で見つめ合う
 
60.
実家から実家が仕送りされてきて(飽きてきたけど)実家を食べる
 
61.
今年こそクーラー買おうクーラーは誰にとってもやさしい風で
 
62.
決行は8月3日フリートに炎上動画をアップしようぜ
 
63.
みなさんがヤード・ポンド法を廃止するのを先生はまだ待ってます
 
64.
パンのみで生くるにあらずだとしてもパンをくださいサーカスではなく
 
65.
最北のコインランドリーの空きを見てどこまで行けど生活はある
 
66.
ワクチンも打ったことだし流行の遅れた服は捨ててしまおう
 
67.
嬉しくて言葉にできないということを小田和正は言葉にしている
 
68.
四十年周期で歴史は繰り返す 1975 2021
 
69.
逆転の発想としてゴキブリが暮らせるくらい綺麗な家だ
 
70.
コロの付くものならやっぱりコロナよりコロッケナリよ(キャベツはどうした?)
 
71.
もう無理とまだ間に合うの狭間にて分解される枕草子
 
72.
この夏の品詞分解為し終えてこれから海に撒きに行きます
 
73.
ソフマップができるといいな猫の額ほどの売地に心躍らす
 
74.
針を刺すことの上手くてこの人に介錯されれば痛くなさそう
 
75.
小室さん成田空港到着のニュース速報流るるを見き
 
76.
海鮮の気分と言ってシーフードヌードル買ってくる同僚よ
 
77.
コロナ禍に馴染みのラーメン屋が消えぬ「不味いからだ」と君は言うけど
全乗せのトッピングを賭け友達と期末テストの点を競った
 
78.
今ここでキレて新たな戸を開くうるせー!知らねー!FINAL FANTASY
 
79.
人間が回転をして静止した皿を取るのが逆回転寿司
 
80.
ミラコスタ英語にするとオーシャンビュー途端に伊豆っぽい雰囲気に
 
81.
初句五音までは無料でこれ以上増やしたければ別料金です
太陽はいつも明るい比例には推しの名前をお書きください
 
82.
「きゅうり・なす・ハイスペックな彼」とある送られてきた買い物メモに
 
83.
おまえの大地三頌おれの大地三頌あわせて大地六頌となる
 
84.
バルミューダスマートフォンで詠む歌はスタイリッシュで蒸気とか出る
 
85.
ナイル川デルタでケン・ケン・パをしたい鴨川デルタでやったみたいに
 
86.
あのモノレール東京流通センターに続いているけど今日は平日
 
87.
クリスマスケーキの予約に行かなくちゃクリスマスソングが聴こえる前に
少女にはクリスマスケーキをわたしにはすみれの砂糖漬けをください
 
88.
冬のダコタ・ハウスは寒い硬券を握ってヌートピアへと向かう #Lennon_tanka
大人にはならなくて良い天国を目指して生きるなんて馬鹿だよ#Lennon_tanka
天国はないから空はこんなにも高く澄んでる うちに帰ろう#Lennon_tanka
 
89.
探し猫見つかりましたのポスターが今年一番良かったニュース
 
90.
ストロングゼロの入った哺乳瓶咥えて今宵もホモ・サピエンス
 
91.
敗北はバニラのにおい世界中のアイスクリーム溶けて消えた
 
92.
帽子から鳩の代わりに純白のインターネットが出てくる手品
 
93.
「人はなぜ陰謀論にハマるのか」「そういう情報操作を受けてる」
 
94.
スタバラテミルクをブランデーに変えトールサイズをホットでください
 
95.
オリオンをなぞっていたらトラックに轢かれて異世界転生する座
 
96.
誕生日カラーの服着て誕生花兼題にして一人歌詠む
 
97.
なけなしの良心ですと差し出したピエール・マルコリーニのカカオ
 
98.
マリンスノーがプランクトンの死骸なら地上の雪は天使の死骸
 
99
昔ほど食べられぬこと知りつつも知りつつも頼む追加の点心
 
100.
Amazonお急ぎ便で頼んだら翌日午後に届いたひかり

ブルーギル

 目が覚めると、身体全体が渇いている心地がした。熱はなかった。左腕の痛みもほとんど引いていた。静かだった。世界中から、潮が引くように音が消えてしまったようだった。ただただ乾いた気配が、僕の周りを覆っていた。
 耳を澄ましてみる。案の定、何の声も聞こえてこなかった。どうやら僕は、一パーセントの人間のようだ。
 “カミサマ”の声が聞こえるようになる、という触れ込みの注射を僕が打ったのは二日前だった。それが完成した当初、効果の怪しさと副反応の強さから、摂取を希望する人はほとんどいなかった。ところが実際に摂取をし、カミサマの声が聞こえるようになった人たちの幸せそうな様子がテレビに流れ出すと、次第に我も我もと摂取を希望する人で溢れ出した。するとまるでその事態が予測されていたかのように、政府によって大規模な接種会場が用意されることになり、毎日何万人もの人がその会場で注射を打たれていた。
 しかし、注射を打った全ての人がカミサマの声を聞けるようになるわけではなかった。割合として、一パーセントの人間は声が聞こえなかった。原因は分からなかった。年齢や性別や持病などとは関係なく、百人に一人の人間が何者かによってランダムに選ばれているようだった。そして僕は、その選ばれた人間だった。

 

 テレビをつけると、宮殿の映像が流れ出した。画面の右上に“LIVE”の文字が見える。僕が二日前、駅から接種会場へと向かうバスの中から見た宮殿だった。二日前は雨が降っていて、バスの窓の向こうの宮殿が霞んで見えた。今日は晴れているために、テレビの中で宮殿はその荘厳な姿をくっきりと映し出していた。
 宮殿には“テンシ”が住んでいた。テンシというのは、何千年も昔からこの国を治める者のことだ。ただし現在では憲法での名目上のものだけとなっており、現実には民間から選ばれた人間が国会で国の運営を行っていた。
 テンシが宮殿から出てこなくなったのは、百年以上前のことらしい。ある日、テンシは住まいである宮殿の門を固く閉ざすと、濠に架けられていた宮殿と外界とを繋ぐ唯一の橋を落としてしまった。それ以来テンシは一切姿を見せることはなくなり、存在を仄めかすものは、正月や建国記念日などの特別な日にラジオを通じて披露される肉声のみとなった。その声も百年間全く衰えなかったため、合成されたものではないかと噂されたが、「テンシは人間を超越したのだ」と主張する勢力も現れていた。
 宮殿の内側でテンシがどのような生活を送っているのかは、国民は全く知ることができなくなった。上空から中の様子を窺うために何度か気球が飛ばされたが、レーザーの白い光によってことごとく撃ち落とされた。濠にはテンシが密かに育成し増やしていた、肉食の凶暴な魚が何百匹も放たれ、濠からの侵入を防いでいた。魚の名前は“ブルーギル”といった。
 そのうちに、国民の誰もがテンシが本当に存在しているかどうかについて気にしなくなった。姿は見えなくとも、年に数回の式典で声が届けられればそれで十分であり、国営には何の支障もなかった。憲法に「帝国ハ万世一系ノテンシ之ヲ統治ス」の一文だけが残された。国会で食料の問題が議論にのぼったこともあったが、「テンシは食事の必要がなくなった」という意見が押し通された。宮殿の下には巨大な地下道が張り巡らされていて、人知れず食料が運び込まれていると唱える者もいた。何れにせよ、記録としてテンシの姿を写した写真も残っておらず、国民にとってテンシは、自分たち人間とは異なる一種の概念のようなものになっていた。

 

 テレビの映像が一瞬乱れた。レポーターが宮殿の門の側に立ち、興奮気味に話している。
「ついにテンシが御姿をお見せになるのです!」
 聞いたことがあった。品種改良によって不妊化させたブルーギルを濠に放流し、何世代もかけて駆除するのだ。テンシが閉じ籠もってからすぐに研究が開始されたと聞いたことがあったが、本当に実用化されているとは思わなかった。
 レポーターの近くで、軍隊が丸太を門にぶつけて破壊しようとしていた。爆弾でも大砲でも使えば良いのではないかと僕は思ったが、門のすぐ近くにテンシがいることを考えているのかもしれなかった。その軍隊を囲うように、いくつものデモ隊が『テンシにも人権を!』とか『テンシの神聖を汚すな!』といったプラカードを掲げて声を張り上げていた。
 門が破壊され、人々がなだれ込む。「テンシはどこにいらっしゃるのでしょう」とレポーターが叫び、カメラが宮殿内部のあちこちを映し出したが、宮殿の中は伽藍としていて、生物の気配が感じられなかった。
 次々と扉が開かれ、カメラが宮殿の奥まで進んでいく。ついに一番奥の部屋に到達すると、カメラが映し出したのは大きな水槽だった。
 水槽には一匹のブルーギルがゆったりと泳いでいた。ブルーギルは世間で知られているものよりも何十倍も大きく、畳一畳は優にありそうだった。身体の表面は神々しく輝き、鱗の一つ一つが翡翠色に発光していた。
「テンシは、どこにもいらっしゃいません……」
 レポーターが消え入りそうな声でそう言った瞬間、映像がブツッと途切れた。テレビの電源を何度も押してみたが、映像は二度と戻らなかった。
 僕は目を閉じて、もう一度だけ耳を澄ましてみた。やはり、何の声も聞こえなかった。

Twitterタグなし短歌04(20190829-20201213)

1.
男には男のふるさとがあるというけどみんな忘れてしまう
 
2.
排しても排しても難万難を排してもまだ万難のあり
 
3.
また生まれ変わった時も俺のことCHAGEって呼んでくれるかASKA
 
4.
そう、僕らはドラゴンに食い殺されて、ウイルスに蹂躙されるのさ
 
5.
三十年ぶりのタバコの煙からベンツの精が現れ 消えた
 
6.
8月38日 最後のサークルKサンクスがファミマに変わり緑が眩しい
 
7.
ドイツから航空便が来るときの緩衝材はグミだと嬉しい
 
8.
ベランダから侵入をした元カレを「ベラ男」と呼ぶのやめて、姉さん
 
9.
鳩数え数えるうちに増えてゆくひいふうみいよういつむうとおハト
 
10.
ねえ、一緒にいこうよ、そんで北の海で夏が死ぬのを見たら消えよう
 
11.
可愛くて健康的で逞しいそんな存在ヘルシーパンダ
 
12.
ロキソニン何粒飲めば生きていく痛みを抑えられるでしょうか
 
13.
かぜ、ひかり、おと、げんしかく、猫の目に乱反射する全ての祈り
 
14.
サザエさん時空に住んでいる君がふと疲れたと弱音を吐いて
 
15.
垢に鍵をかけようかなと思うけどどこにも鍵が見当たらなくて
 
16.
掴もうとすればするほどすり抜けてスタンド・バイ・ミー夏の終わりに
来なかった季節を思い出しながら今日も一日死に向かっている
 
17.
塩素酸以外に次亜の付く化合物のあることみんな知らない
 
18.
アドベントカレンダーには毒薬をクリスマスには死ねるようにと
 
19.
分かってる時間は僕を裏切るし僕も時間を裏切っている
 
20.
ああこれが宇宙の終わる瞬間か進研ゼミでやったところだ
 
21.
命とは所詮なにかの錯覚で電子マネーで神さまを買う
 
22.
飲みすぎて記憶があまり無いのだがユニセックスと連呼していた
飲みすぎて記憶があまり無いのだが傍らに落つ蛇の抜け殻
#飲みすぎて記憶があまり無いのだが
 
23.
気の抜けたビールが喉を越えられない越えられなくて言えない別れ
 
24.
これ短歌になりそうだなって体験を敢えてしないという選択を
 
25.
しあわせはまんまるみかんのまんなかに夕日をひとつ丁寧に剥く
 
26.
泣いている赤鬼を笑わせるため来年のことばかりを話す
 
27.
失った時間はどこへ消えたのかカバンの中には出せない手紙
 
28.
鐘の数? 八十までは数えたわ待つことにもう疲れちゃったの
 
29.
そのうちに馴染むんだろう見慣れないスタートメニューや遊ゴシックに
あんなにも文句を言ったシステムに慣れたら変わることを恐れる
また次の世界の窓が開くとききちんとさようならって言いたい
 
30.
もーいいよ、虚しく声が木霊する救われなかったシャドウポケモン
 
31.
母親が外付けバッファローと呼ぶハードディスクも眠る雪の日
 
32.
パラドクス穴があるのがドーナツで階段なのがエスカレーター
 
33.
ごめんなさい、同窓会には行けませんそこの大学落ちちゃったから
ごめんなさい、同窓会には行けません言いたいだけの人生だった
 
34.
ノンシュガーノンアルコールあるはずのものがないんだという表現
 
35.
スパイスの香に誘はれて亥の刻に我は昼餉の咖喱食ひけり
 
36.
腹痛が必ずやってくることも喜びである麻婆豆腐
 
37.
スーパーでコーヒーゼリーを買い込んでデヴィッド・ボウイと俺の違いは
 
38.
ぐりとぐらどちらにしても僕たちは巡り巡られまた春に会う
 
39.
フィクションをあまりいじめてくれるなよ所詮リアルは泡沫の夢
 
40.
人はいつ真の孤独を知るだろう過疎の進んだISS
 
41.
犯人の分かったところが限界でトリックを見ずにサウナから出た
 
42.
この冬はヒートテックを着ないまま終わりそうだと不意に夫が
 
43.
映画館潰れたあともクレープを食べるデートの終わりの儀式
 
44.
カレー屋のトイレにあったお客様ノートに何も書けずに僕は
 
45.
朝起きて「ワニ生きてる?」と妻に聞き「まだ生きてる」と妻は答える
 
46.
また夢の続きの話をする僕らディズニーランドにまだ行ってない
 
47.
みないつか船から降りるその時に振り返るべき役割がある
 
48.
お寿司屋のレーンの描くメビウスの軌跡に戻すサーモンの皿
 
49.
慣れ親しんだ猫をしばらく見ておらずもしや私は別の世界に
 
50.
記録的暖冬ゆえに300キロ北から届く愛の便箋
 
51.
おお故郷、ダイヤモンドの煌きも吸引力も変わっちまって
 
52.
ダイソンでブラックホールを作りつつ永遠だよねときみは言うけど
 
53.
戦争から戻ってみればこの場所にネコはもういませんとだけあり
 
54.
イマジナリー上司がわたしにイマジナリー業務を命じる四月一日
 
55.
薄紙が世界の色を吸い取って透明だけがあとに残った
 
56.
衛星を二つ抱える星にいてどちらの月が好きかを尋ねる
 
57.
嵐のあと心置きなく歩きたいけれども心はまだあるだろうか
 
58.
イースターエッグを探していたのではなかった 僕らは監視されてた
 
59.
雨音が聞こえなくなる天気図の世界はいつも昼の明るさ
 
60.
このピタゴラスイッチテレビの放映が終わった後も動いてんのかな
 
61.
オクラホマミキサー踊りガソリンでキャンプファイヤーする子供たち
 
62.
夕暮れに虚無の泉を採掘す蜃気楼たる石油プラント
 
63.
玉ねぎを齧ると胸が痛くなるそれって人生みたいですよね
 
64.
乗車率マイナス200%みんなで運ぶ東海道線
 
65.
安楽死の費用を調べてみてみれば10万程度じゃとんと足りない
 
66.
未来人は"STAY HOME”と刻まれた遺跡の壁を見つけるだろう
 
67.
Excelを使わず作る鮮やかな緑色した二連アーチ橋
 
68.
オンライン名刺交換会へ行きやり取りされるTwitterID
 
69.
インターネットよりも巨大なラブレター昨日書いたよ今すぐ読んでよ
 
70.
1 = 0.999999…僕も永遠でしょう
 
71.
Excelであれば循環式となる「張り紙禁止」と書かれた張り紙
 
72.
パスタ作ったお前とパスタ食う俺とパスタになったデュラムセモリナ
 
73.
投票に行くともらえるアメリカンドッグの根本のカリカリのとこ
 
74.
選挙権も住民票もないけれど掌にいっぱいのどんぐりがある
 
75.
雨音を掻き消すために雨音の環境音の音量を上げた
 
76.
【重要】ご確認しなくてもいいがお前の脳に残り続ける
 
77.
白票を投じれば無が当選し公約通り無となる東京
 
78.
慶應の男もやはり血液の話しかせず解散となる
 
79.
僕たちがアートを"盗む"とき何を盗んでいるのだろう曇天
 
80.
あいつらは"アート"を分かっていないから"アート"を分かっている人が言う
 
81.
神などはいないと言ったドーキンスが後の世界で神と呼ばれる
 
82.
詐欺になることを恐れてこのラブをレターパックで送るのは止す
 
83.
一輪車二人乗りする帰り道道路交通法を守って
 
84.
ねえ、MALICEとMIZERのどっちが大事なの? 困ったようにGacktは笑った
MALICEよりMIZERが好きでGacktって今でも家では全裸なのかな
ラルクって"虹"って意味だと君は言う L'arcはフランス語でアーチです
 
85.
戌年の母にハッピーバースデー送れば犬が死んだとのこと
 
86.
あそこまで引っ張っといて百日後死因交通事故は空しい
 
87.
こんなにも静かな夜だサーキットブレーカーのスイッチを押す君の指
 
88.
思ったんだけど、シャワーを浴びてもう一度服を着るのは変じゃないかな
 
89.
寒いから服を着ました文明の始まりですとゲームみたいに
 
90.
秋という名前が嬉しい黒という名前なら中黒の明月
 
91.
泡良くば結婚しようと言ってみる泡はパチンと弾けてしまいぬ
 
92.
量子的ゆらぎによって生じ出づ意識という名の揺蕩うものよ
 
93.
高尾山トリックアート美術館死んだら僕らも展示をされる
 
94.
脱サラの父の始めたイタリアンはリンガーハットの居抜き案件
 
95.
インシュリンランゲルハンス島にある酒飲みを呼ぶ音 飲酒鈴
 
96.
無意識に塞いでいた耳。みんな何か崩れているんですよ、人生。
 
97.
ランボーは詩を捨て貿易商にシュリーマンは貿易を捨て考古学者に
 
98.
死んでからのほうが長くてポップスは神さまよりも人気だよ、ジョン
#Lennon_tanka
 
99.
家は良い掃除をすれば綺麗だししなくてもまあ雨除けになる
 
100.
使ったらダメージ受ける武器のよう「コロナ対策 東京かるた」

Twitter短歌03(20181205-20200509)

100まで詠んだら記事にしようと思っていたけど、あんまりTwitterに短歌をアップしなくなってきたので。
 
1.
ナイトメアー・ビフォア・クリスマス空っぽの靴下だけがある枕元
 
2.
来年の健康祈願の一環で積読をまた一冊増やす
 
3.
みなひとり(ひとりふたりと)偏頭痛持ちは偏る愛の傾向
 
4.
積みあげた檸檬に置いた丸善が爆破し崩れゆく様うつくし
 
5.
冬の日に素肌を晒す人はなく彼といるのはいつも冬の日
 
6.
さよならは神さまみたいに嘘つきで僕らは二度と会えないだろう
 
約束メーカー「ずっと最低でいようね。終わりが来るまで、かみさまのことは忘れていようね。」より
 
7.
最低なかみさまだよね何一つほんとうのこと言ってなかった
 
約束メーカー「ずっと最低でいようね。終わりが来るまで、かみさまのことは忘れていようね。」より
 
8.
銀色の聖書を燃やす雪の日に鱗粉のごと灰の舞い上ぐ
 
9.
月はまだそこにあるのか幾層の雲を突き抜け光は届く
 
10.
お客さん終点ですよの声がして顔を上げれば雪の降る街
 
11.
定時後のウラジオストック行きに乗る冬の終わりに耳をそばだて
 
12.
愛という病名はなくきっと僕は死因不明で発見される
 
13.
天国の59番通りには靴磨きをする悪魔の弟
 
きょうの守護霊「きょうのニコさんの守護霊は、天国のはずれで星を散りばめています。」より
 
14.
お祈りの忘れ去られた教会で罪なき人の開かない瞳
 
約束メーカー「ずっと空き家でいようね。失神するまで、教会のことは忘れていようね。」より
 
15.
閉じ込めてしゃぼんの球は凍りつき万華のような虹を見せてる
 
きょうの守護霊「きょうのニコさんの守護霊は、シャボン玉の中で消毒液をかけています。」より
 
16.
キャラメルの匂いを嗅いでああここはほんとに夢の国だと悟る
 
17.
もし君に学名があれば君のその美しい名が三つ並ぶよ
 
18.
全員がスマホを捨てた街中で再会できたら本物だよね
 
19.
讃美歌をあさりは歌う塩水の中でぷくりと砂を吐きつつ
 
20.
立つ鳥に揺れる虹彩一冬は一冬かけて一冬となる
 
21.
赤色と緑の円の見え方を聞かれそもそも見え方って何?
 
22.
朝ぼらけ私を起こす鳥の声ツインバードのホームベーカリー
 
23.
三連休三連荘で細胞は変わり続けてても僕のまま
 
24.
おやすみ練馬ベッドタウンは春の足音に気づかず眠り続ける
 
25.
喜びは天にあります地上では悲しみだけを忘れないでね
 
26.
虚数個のドーナツを買いイマジナリーフレンドと分け合った春の日
 
27.
白ポストソメイヨシノが投げ込まれ日本は春が無くなりました
 
28.
平成の記憶を持った雨傘は令和を知らずに捨てられていく
 
29.
綴じ糸を彼女は千切り青色のページを並べた 海が見たくて
 
#平成末日万葉集
 
30.
千珠沙華なんて名前の花はなく許されなかった美しき死は
 
31.
ポリンキー独りっきりで生きるなら争いなんて生まれないよね
 
32.
いつからか泣くのが怖くなっていて夢に飼ってる虚構ペンギン
 
33.
歩くたびツイートをするそのたびにすり減っていく踵と心
 
34.
夏にだけ現れ皮膚を突き破り血を吸う虫を今年も殺す
 
35.
雪になれば溶けて消えると思いきやぐずぐず泥と混じってしまう
 
36.
さようなら、さよならbotこれからは生身の言葉を愛していくよ
 
37.
支払いは一括ですかリボですかどうせ死ぬから今死にますか
 
38.
大丈夫 明日世界が終わっても先発投手は山本昌
 
39.
恋をしている時くらいおっさんであるということ忘れていたい
 
40.
ボコボコにしてみた後でこの歌は強度がないとゴミ箱に捨て
 
41.
えら呼吸できない僕は君という水槽の中で溺れてしまう
 
42.
“雨”の字が豪雨みたいに流れてくタイムラインがとても静かだ
 
43.
終わらせ方を決めないままに永遠を始めてしまい後悔している
 
44.
破棄されたハンドスピナーが集まって一つの銀河を形成してる
 
45.
滅亡ののち何かのゲノム解析が終わったことを告げるアラーム
 
46.
夢のなか増殖をするウイルスに気づいたときには手遅れだった
 
47.
放課後に耳打ちされた「かき氷のシロップは全部同じ味だよ」
 
48.
子狐はこう言いました「このお胸にちょうどいい希死念慮下さい」
 
49.
永遠を無邪気に賭けの対象にしてたね、ゲームはまだ終わってない
 
50.
Amazonで一つ頼んだ流れ星玄関前に置き配指定
 
51.
”さ”の音が口に出るとき唇をかすめる風がさびしい、皐月
#五月の詩
 
52.
港まで薫ってくるよ海底に沈んだ空中都市の茉莉花

Twitterタグなし短歌03(20181201-20190828)

#tankaのハッシュタグをつけずにTwitterに放出したもの。
 
1.
増税をしよう」だなんて赤坂の小洒落た店で決めてもいいの
 
2.
雲の道辿ってゆけば君の云うほんとの空へと至るだろうか
 
3.
四足の草鞋を履いている人にお疲れ様とたこ焼き奢る
 
4.
流行語大賞を云ふくちびるが古典へぶらい語を発音す
 
5.
ラテアートで恋人を描く 恋人が消えないようにゆっくりと飲む
 
6.
ハイリングゲートウェイ駅ああ君と初めて会った駅を見上げる
 
7.
同じ道を間違って同じ道を歩く二人は幸せでしょう
 
8.
腹話術師の人形は自殺して別の人形テレビに出てる
 
9.
シェアボタンクリックしても感情の共有なんてできっこないね
 
10.
きみの姿はおぼろげなのにきみの声の形は今も輪郭を持つ
 
#HATSUNEMELTDOWN
 
11.
簡単にできるんだよとジョンの言う世界が想像できずに僕は
 
#Lennon_tanka
 
12.
君はそれでも生きていけるし、僕もなんとかやっていくから、じゃあね
 
13.
積み木だと思っていたらレゴなのでくずす間に終わる反抗
 
14.
いつだってNORTH FACEな君だから熊とか撃ってなんだか涼しげ
 
15.
ああサラミきみが好きだよサラサラと朝の光で砂になっても
 
16.
先月はどんな顔して生きたっけAppleからの領収書です
 
17.
子供には戻れませんか夢を持つことが死ぬことよりも怖くて
 
18.
唐辛子を多めに入れた天そばにネギを散らしてクリスマスとした
 
19.
白妙の粉の吹きたる干し柿のやわき甘みはやさしき甘み
 
20.
Fキーに人差し指を引っ掛けることを想像して変態だ
 
21.
もしかしてうどん派だった? そんなにもそば好きそうな顔してるのに
 
22.
幸運を吸い取りし後アフガンの石は百万年の眠りへ
 
23.
ささやかな夢を持ちたい魔法使いの嫁の弟の友になりたい
 
24.
川が見たい桜じゃなくて四月から隅田川の辺りに住みます
 
25.
お爺ちゃんいい歳だからほとばしる熱いパトスは少し抑えて
 
26.
二十枚賀状を出せば宛先の不明で戻る仕事始めに
 
27.
最高に好みの女優が母親と同じ名前で抜けないでいる
 
28.
パーカーのフードの裏が乾かないように悲しく死んでしまった
 
29.
どちらかと言ったら蒸してある麺をまあとりあえず焼きそばと呼ぶ
ボツボツと細切れとなる焼きそばの一つ一つに意味なんてない
作り方通りに作る焼きそばがベチャっとしててベタ雪の降る
 
30.
何であれ一歩目がある自らを信じることを自信と呼べば
 
31.
向日葵の種を一粒植えたから花咲く夏の頃まで生きて
 
32.
人はみな仮面を被り感情を押し殺すからゼロキロカロリー
 
33.
タイムラインにシナモンシュガーふりかけてまあるくまるめオーブンで焼く
 
34.
君んちの側のファミマはいつだって千円札が不足してるな
 
35.
ザッピングみたいに歌集を拾い読み作者の顔は見たくもないし
 
36.
生きるごと消せぬ穢れは積もりゆきエンガチョ切るは一種の祈り
 
37.
雨が止み二月は空に吸い込まれヤンジャン本誌を読む宵の口
 
38.
降るときはどこか苦しくああ君は病まない雨はないと言うけど
 
39.
隣室でキャトルミューティレーションが毎晩起きて寝不足である
 
40.
こうやって逃げ場をいくつか用意しておけばそのうち役立つはずさ
 
41.
AVの導入部には神からのお告げがあるが誰も気づかず
 
42.
”Hey Siri”と叫んで5億年分のタイマーセットし眠りについた
 
43.
無意味だねいつか消え去る存在もそれが抱える喜怒哀楽も
 
44.
「へいわ」って言ったのだろうか争いの下で震えた君の唇
 
鏡だけ新しくした新学期「令和」の意味を僕に尋ねる
 
花じゃぼくらを救えりゃしない 風だけが「令和」の意味を教えてくれた
 
45.
伸ばされる夕焼けの道最寄り駅徒歩三十分の物件に住み
 
46.
春うららシンクに光の反射してふぞろいにんげん50円引き
 
47.
港区のほっともっとで唐揚げを待ちつつ足立区の歌を聴く
 
48.
レオ・レオニ藤田富士夫に樹木希林高田隆弘安田康弘
 
49.
ヨーグルトはちみつローズヒップティーをボンヤリ混ぜて胃に入れる朝
 
50.
秒速で五センチらしいさくら花の落ちる速度は(空気は無視する)
 
51.
クリームに直接チーズの入ってて大人になると気づく優しさ
 
52.
唐突に日常回が差し込まれ僕らの神は壊れてしまった
 
53.
ビール瓶片手に地下鉄乗り込んでそのまま心を失いたいなあ
 
54.
バンクシー、電気羊に出てきてる共感ボックス作ってくれよ
 
55.
生ぬるい夜は嫌だな飛び出してみたはいいけど頭は冷えず
 
56.
ビルトイン・スタビライザー、シビリアン・コントロールの政治経済
 
57.
一生に一度くらいは幸せを求めてイオンモールへ行こう
 
58.
『ニホンジン』と呼ばれる人が減る時代それでも次へバトンを渡す
 
#平成末日万葉集
 
59.
定年後の夢だったと言い脳漿のクオリアを食う獏を飼う父
 
60.
夢に見た時とおんなじ眩しさでどこまでほんとか分からなくなる
 
#自分なりのI_love_youの訳し方を考える見た人もやる
 
61.
この**がお似合いですと言う人は俺より俺を分かってるんだ
 
62.
神様の経済政策愛情の安定上昇率2%
 
63.
シャーマンになったら誰を呪おうかあいつとあの娘と自分と神さま
 
64.
さようなら 何が左様か知らないがおわかれだってことだけ分かる
 
65.
マジっすか涙の数だけ強くなれるんだったらオレ最強じゃん
 
66.
スタバにて高校生がじっと見る聖徳太子の政治のページ
 
67.
サイフォンを説明する時いちいちさ醤油ちゅるちゅる言わんでええよ
 
68.
May blues 背骨の歪みがよく見える透明骨格標本の瓶
 
69.
どうすれば勝ちであるかを知らぬまま「雨ニモマケズ」なんて叫んで
 
70.
取扱説明書のない青春は自由に生きれば正解だった
 
71.
お嬢さんお入んなさい、テロメアの長さが足りず引っかかる足
 
72.
世界中工事現場で世界中シンナーくさくて皆ラリってる
 
73.
僕は気が狂ってるけど殺人も浮気もしないのが取り柄です
 
74.
弟の恋人はいつ弟が精通したか存じ上げない
 
75.
幽霊と二人で歩く行き先は未来ではなく戻れない過去
 
76.
ボクシング始めようかなあの子との距離の取り方分からなくって
 
77.
気がつけば大人となって味覚とか好みのタイプなども変わった
 
78.
「半年に一回は来て下さい」と告げる歯医者の薄い唇
 
79.
人間の弱さと無力さカミ様を否定しながら祈り続ける
神さまも人が作ったはずなのにどうしてそいつに祈るのだろう
創る手と壊す手重ね額づけば人類は知る祈りの所作を
 
80.
ボサボサと勝手に伸びるこの髪を切らない間は終わらない恋
 
81.
無力さに苛まれながら祈るのか無意味と知りつつ作詩するのか
 
82.
投票所出口で夏を待ち受ける三年前より重苦しい空
 
83.
ボウリングのピンがガラガラ崩れゆくようにあなたと夏を迎える
 
84.
いっせーのせでもうみんな寝ませんか王子がキスをしてくれるまで
 
85.
誕生日よりも初めて君の中で自我の芽生えた日を祝おうよ
 
86.
走らされ種馬として酷使され好きの気持ちは馬それぞれで
 
87.
上顎につかないように食べるのがキーンとならないコツ 食べづらい
 
88.
芸術に政治を巧く組み込もうセリヌンティウスを生贄にして
 
89.
イエスマンはもうやめたいと銭湯の扇風機から教えを得ている
 
90.
小説を書き終わったら結婚をしたい戦争なんて行かずに
 
91.
無理矢理に改宗されたく思えども信じるものを我は持ち得ず
 
92.
改宗し「猛犬注意」の看板を「猛猫注意」に変える隣人
 
93.
孝行をしたいと思う日もあって今すぐ俺の母親になれ
 
94
ようやくに献血十回達成し貰いし硝子の盃で酔う
日々変わる体から採る一滴はこの日確かに生きた痕跡
恐らくは何も残せぬ生だろうせめてこの血が助けとなれば
 
95.
人間に捨てるとこなし何もかも燃え尽きたあと心臓一つ 血は凍る
時の奴隷の僕たちが生き抜くことを拒絶するとき
 
96.
モリサワのフォントをくれた彼の人へお元気ですかと直筆の文
 
97.
いつまでも勇者でなんていられない私は山田孝之じゃない
 
98.
謎が謎を呼んでるうちに合体し何だかどうでもよくなってしまう
 
99.
いつの日か核戦争を起こすならBGMはenyaにしたい
 
100.
メルカリで苗字を売ればこんなにも彼を愛した人が集まる

F1、AI、自死

 友達がF1にハマっていて、今度鈴鹿まで行ってグランプリを見に行くらしい。私はあまり興味がないのだが、昔兄がテレビで見ていたのを横から覗いたことはある。シューマッハ兄弟とか、ハッキネンとか、そんな時代だ。ちらっと見ただけだったが、車が同じところをぐるぐると周っているようにしか思えなかった。たまにピットストップでタイヤ交換を行うが、これも早ければ早いほど良いため、一瞬で終わってしまう。そのため、何が起きているのかよく分からない。コースを走っている光景も、実際はものすごいスピードが出ているのだろうが、テレビの画面越しだとそこまでスピードが出ているように感じなくて(これはテレビで見ていると、野球のピッチャーが投げる球があまり速く見えないのにも通じる)、興味がない人間が見ているとだんだん飽きてくる。
 とは言え、F1が好きな人に「同じところをぐるぐると周っているだけでしょ」と言うのは、サッカーが好きな人に「ボール蹴っているだけでしょ」とか、読書が好きな人に「文字列を追うだけでしょ」とか、絵画の鑑賞が趣味な人に「絵の具がキャンバスの上に乗っているだけでしょ」と言うくらいセンスがないことくらいは分かる。同じところをぐるぐると周っているのを見るだけであったら、自動運転で済む話だ。そういう同じ場所をなぞるというのは、自動運転の得意とするところだろう。つまり、そうではなく人間が運転して、整備するのが面白いのだと思う(ただ、自動運転の車同士で競うのも面白いかもしれない)
 
 ただ、人間が運転するとミスが起こる可能性がある。そのため、技術が確立してしまえば、普段の生活で車を乗る時は人間が運転するのではなく、自動運転に徐々にシフトしていくはずだ。そうすると人間は車を運転する面白さという感覚を段々と失っていくことになる。それでもF1は続くだろうか。続くような気がする。分からないけど。
 この人間の「ミスをするところ」というのも面白さの一つなんだと思う。完璧なものを見ていても面白くない。将棋におけるAIと人間の戦いも、人間が勝っているうちは良かったが、人間がもう絶対勝てないというところまでAIが進化してしまうと、それ以上見る価値はあまりない。人間同士が限界を少しずつ超えながら、時にはミスをしながら戦う姿を見ると、手に汗握るほどの興奮を得られるのだろう。
 
 しかしながら、人間よりミスの少ないものがあるのであれば、今後はそっちの方が重宝されるようになっていくだろう(それがAIなのかは分からないが)。裁判も判例を重視するのであれば機械で良いのではないかという話になってしまうし、外科手術などのミスが許されない作業も機械の手助けがあった方が良いだろう。
 
 そう、我々はミスをする。本人が思いもよらない所でも。
 ゲーテが書いた「若きウェルテルの悩み」を読んだ若者達が同じ方法で次々と死んでしまったことを「ウェルテル効果」と呼ぶが、ゲーテ本人は自殺したわけではないし、まさか小説を読んで人が自殺するだなんて思いもしなかっただろう。
 我々が小説に影響を受けて自死を選んでしまうのであれば、人間は小説を書くべきではないのかもしれない。AIが書いた、完璧な、自殺などを思い起こさせない小説を読まなくてはならない。それはどんな内容だろうか。きっと、ぐるぐると完璧な周期で周回をする物体を永遠と見せられるかもしれない。それは一つの輪廻であり、全ての人の人生である。