日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

小説

ブルーギル

目が覚めると、身体全体が渇いている心地がした。熱はなかった。左腕の痛みもほとんど引いていた。静かだった。世界中から、潮が引くように音が消えてしまったようだった。ただただ乾いた気配が、僕の周りを覆っていた。 耳を澄ましてみる。案の定、何の声も…

雪を燃やす(短編小説)

北へ北へと旅をしているうちに、冬になってしまった。 それ以上進みたくとも足がない、と宿の主人に聞いたので、その村で冬を越すことにした。 村には雪が降っていた。私が生まれ育った土地は暖かかったため雪が降ることはなく、私は雪というものを見るのは…

Twitter小説101~200(20171027-20180216)

最近書いてないですが、100書いたみたいなので。 twitter.com 101. 金の絨毯が敷かれた並木道を歩く。春の頃よりもだいぶ膝の具合は良い。鶯の代わりに眼白が鳴く。極楽、と使い古された表現を使いたくなる小春日和。一瞬後に厳しい冬が来るが、憂鬱な気持ち…

ロシアンタクシー(短編小説)

その日、僕は初めてロシアンタクシーに乗った。 普段僕はタクシーには乗らない。職場には電車で行っているし、休日にどこかへ行く時も、大概は電車か車で行っている。しかし、その日は残業をしてやらなければならない仕事があり、仕事が終わった時にはもう夜…

月の魚(短編小説)

月にいる魚のことに気付いたのは二人の少年少女だった。 少年は日本人だった。小学校の自然教室で、夜空を観察しているときに月にいる魚を発見するんだ。もちろん、すぐに先生やクラスメイトに知らせた。 「先生! 月に魚がいる!!」 ってね。まあ、もちろ…

靴を買いに行った話(短編小説)

僕がたった一人で見たり聞いたりしたことについて、それが本当のことなのかどうかは証明の仕様がない。僕はなるべく正確に伝えようとするけれど、僕というフィルターを通して話す以上、本当に正しいことなのかどうかを僕自身が語ることはできない。その上そ…

記憶について(短編小説)

「佐藤さん」 住んでいるアパートの階段を登ろうとした時、背後から声をかけられた。今泉だ。私は少し大げさなため息をし、日課となってしまったやり取りを始める。 「またですか、刑事さん。いい加減にして下さいよ」 「何度もお尋ねしてしまって申し訳ない…

地下鉄で傘を忘れた話(短編小説)

世界観という言葉が苦手だ。 世界観って何を表しているのか。クリープハイプか。世界って何だ。 そういう話。 あっと気づいた時にはもう遅くて、地下鉄に傘を忘れてしまった。 それでも褒めてほしい部分があって、上りのエスカレーターに乗っている途中には…

供養(過去のTwitter小説)

4年くらい前から書いていたTwitter小説とか。 諸事情でTwitterのアカウントを消してしまったため、ここにアップする。 ディスカヴァーのツイッター小説大賞に応募したのが懐かしい。 1. 肉体の繋がっていない精神と、精神のない肉体、どちらが不幸だろうか…

Twitter小説1~100(20170824-20171025)

Twitter小説100個書いて モーメントにもまとめてあるんですが ブログにも載せます twitter.com 1. 彼のために半熟の目玉焼きを焼いた。 「人間みたいだね」フォークで黄身を潰しながら彼は言う。 「どれだけ表面を取り繕っても、中身はドロドロした柔らかい…