日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

Twitter小説1~100(20170824-20171025)

Twitter小説100個書いて

モーメントにもまとめてあるんですが

ブログにも載せます

 

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1.

彼のために半熟の目玉焼きを焼いた。 「人間みたいだね」フォークで黄身を潰しながら彼は言う。 「どれだけ表面を取り繕っても、中身はドロドロした柔らかい肉なんだ」 そうね、と同意しながら次はガチガチに固い目玉焼きを焼いてやろうと決心した。私の肉のように固いやつを。 #twnovel 

 

2.

夜の23時に彼女は1時間だけ目を醒ます。ご飯を食べながら、楽しそうに23時間の間に見た夢の話をし、日付が変わる午前0時に再び長い夢の旅に出る。僕は彼女の話を書き留め、6時間かけて清書をし、1時間だけ眠りにつく。目を覚ました時、彼女が枕元で微笑んでることを夢見て #twnovel 

 

3.

私の夢にはいつも同じ男の人が出てくる。美味しいご飯を用意してくれて、優しそうな顔で私の世界の話を聞いてくれる。楽しい話、悲しい話、真面目な話、荒唐無稽な話、笑える話、腹が立つ話、どんな話で聞いてくれる。ああ、もっと話がしたいけれど、もう現実に帰らないといけない #twnovel 

 

4.

デパートでは何でも売っている。愛や友情はもちろん、目ヤニのついた猫や大統領のラブレター、宇宙の始まりなんかも売っている。およそみんなが必要とするものは全部売っているけど、必要とされていないものは売っていない。じゃあ、僕はいつになったらデパートで売られるのだろう。#twnovel 

 

5.

星ではダイヤがよく取れたため、蒸気機関車の燃料にダイヤを使うほどであった。ダイヤで動く機関車は力強く、煙突から出る蒸気は星屑のようにキラキラと輝き、タイヤからは虹色の火花が散った。そして、機関車はそのまま宙へと飛び出し、新たな鉱石を求めて走り続ける。どこまでも。#twnovel 

 

6.

三人の男が神の存在について賭けを行なった。最初の男が「神は猿だ」と言うと雷が落ち男は死んだ。次の男が「金塊を降らせろ」と言うと、空から金が降ってきた。最後の男が「神は死んだ」と言うと、最初の男は生き返り、金塊は消え、三人の男は賭けについての記憶を失ってしまった。#twnovel 

 

7.

抜けたハを山に埋めると高いキとなった。独りになりたい時僕はキに登り、天辺にある大きなハの上に座る。かつて自分だったものに座ると優しく抱き締められているようだ。よく見ると地面にキから落ちたハが散らばっている。きっと世界中にキができる。僕は孤独を感じなくなるはずだ #twnovel 

 

8.

ふいに飲み込んだ歯はお腹の中に残り、ゆっくり、しかし確実に大きくなっていった。僕が死んだ後、きっと僕の墓に残った歯が埋められる。何百年もすれば、僕の歯が地面から生えてくるかもしれない。誰も僕のことを覚えていなくとも、僕が生きていたということを静かに証明しながら。#twnovel 

 

9.

雨の音で世界は一変する。見えていたものが見えなくなり、見えなかったものが姿を現わす。外に出てはいけないと言われたが、構わず外に飛び出る。耳鳴りがし、視界はぼやけていき、自分と世界の境界が曖昧になっていることに気付く。家に戻ろうとする。なのに、帰り道が分からない。#twnovel 

 

10.

近所の噂話、廃品回収、子供の笑い声、赤ん坊が泣く声、左隣の家のギター、右隣の家の料理をする音、裏の家のテレビ、向かいの家の歌声。発情する猫、日暮、鈴虫、雨の音、風と木、君の息づかい、僕の心音。全てを消したい。でもそうなったら、僕はきっと無音の中で耳を塞ぐだろう。#twnovel 

 

11.

呪いで猫になって一番驚いたのは、皆が私を愛してくれることだ。イタズラしたり不遜な態度をとって叱られるこたはあっても、嫌われることはない。人間は自分より弱い立場のものしか愛せないのかと今更気がつく。だが彼らは勘違いしている。その気になれば一撃で仕留められることを。#twnovel 

 

12.

青が好きなので世界を青一色にした。朝も夜も太陽も星も空も海も大地も空気も水も雲も雨も雪も雷も花も葉っぱも枝も幹も根も草も犬も猫も家も車も本も文字も食べ物も飲み物も髪も瞳も皮膚も服もズボンも下着も靴も、全部青くした。青の中で僕は春を待つ。一度きりの大切な春を待つ。#twnovel 

 

13.

救急車の音が聞こえると、誰かが死ぬのだろうか、もしかしたら生まれるのかもしれない、そんな事を考える。生と死の狭間の音が、ドップラー効果で音程を変えながら、ゆっくり近づいて離れていく。生まれた時の景色は白で、死ぬ時は黒だ。慌ただしく生まれて、静かに死んでいきたい。#twnovel 

 

14.

子供の頃から疑問だった。昼と夜の境界はどこなのだろう?遠い夕焼けの後ろでは夜が始まっていて、君と僕の境界はなくなった。生まれ落ちた後、死んでいないってことに気がついた。死んでしまった後、生きていないってことに気がつけるだろうか。生と死の境界なんて、見失ったのに。#twnovel 

 

15.

新型のiPhone Cの発表を人々が待っている。iPhoneが初めて世に出てからすでに100年経った。10周年のiPhone Xよりも100倍は盛り上がっている。iPhoneを含めた電話は変化もあったが根本は変わらない。他人と繋がりたいという欲求、そして幻想だ。#twnvday 

 

16.

地球が歪んでしまったため、待ち合わせの十字路はX字路に。「ローマ数字だと同じ10って意味だから」と言うと「このままだとI字路になるわ」と彼女は笑う。このまま歪み続けてほしい。彼女が僕自身の歪みに気づく前に。そうすれば、交わる線が直線になる様に彼女と一つになれる。#twnvday 

 

17.

あの人の写真が一枚もないことに今更後悔している。映像もなければ音声もない。残っているのは薄れゆく思い出の日々と頭を撫でてくれた手の温もりだけ。最近では夜中に一人で泣いていると、すっかり大きくなったあの人の忘れ形見が私の頭を撫でてくれる。悲しい。が、強く生きねば。#twnovel 

 

18.

明日までの命の半分を引き換えに悪魔と契約した。翼を与えられて病院を飛び出す。宝石の海岸。空飛ぶペンギンの群れ。本でしか知らない景色。太陽の側で寿命が訪れ私は落ち始める。瞬間、意識は無限に拡大され、私はいつまでも落ち続けた。あれから50年。私にはまだ死が訪れない。#twnovel 

 

19.

ミサイルが飛んでくるらしいので、遺書を書いた。日記と小説は燃やしてもらい、HDDも粉々に。猫は親戚に預かってもらう。そして最後にスイッチを遠距離の彼に預ける。ミサイルが来たら、押してもらうのだ。敵国へのミサイル発射スイッチを。私だけが死ぬなんて、許されないから。#twnovel 

 

20.

踊る踊る。キツネは踊る。ピンクと白の世界の中で。北へ北へと住処を求めてやって来たが、これ以上は寒すぎる。生物が生きていける環境ではない。黒くて細長い物が銃かカメラか分からない以上、人の姿を見たらすぐに逃げ出す他ない。踊れ踊れ。キツネよ踊れ。黄昏時が、終わるまで。#twnovel 

 

21.

売れ残りの花束。明日には捨てられてしまうだろう。世の中捨てる神しかいなくて、拾う神なんていない。ここに来るまでの道のりは、ちょっとした冒険のようだった。ああ、どうか捨てるのであれば、誰も来ないような寂しい場所に。健気に咲き続けますから。種を付けることもできずに。#twnovel 

 

22.

時計はゆっくり、誰も気がつかない速度で進む。僕と彼は流れている時間が違うから。僕の一年は彼の一秒。「百万年後にまた会おう」と約束した。僕にとってか、彼にとってか。どちらにしても僕はこの世におるまい。今すぐ時計の針を進めたい。薔薇を眺めながらただ待つ時は長すぎる。#twnovel 

 

23.

北極熊を南極に連れて行きたい。どうせ電波はないから、誰にも自慢できないけど。オーロラを見ながら歌でも歌いたいが、風が凄そうだ。ポーカーをしたら負けるだろう。BJなら勝てるかもしれない。地球の反対側に来たことが分かるだろうか。多分、分からない。寂しさと白さできっと目が焼けてしまう。

 

24.

鏡のない国に行きたい。他人と他人とを比べることはあっても、他人と自分を比べることはない。自分の顔が分からないから、みんなどこか自信なさげだけれど、精一杯生きている。死ぬ直前に初めて自分の顔を見せてもらって、少しの驚きと共に、「今までありがとう」って感謝を言いながら死んでいきたい。

 

25.

二十代は冒険みたいで、三十代は隠居みたいだった。秋の楡の葉の様に、私の皮膚も色褪せていく。この地に根を下ろすことを恐れて、実のない花を何度も咲かせてしまった。あなたは私の顔は覚えていますか?きっと声は忘れたでしょう。音が止まない。耳の奥で寂しそうにカサカサと。#twnovel 

 

26.

幸せに死ねと言われた
初めて出会った神様に
それから呪いのように
幸せを求めて生きている
迷える仔羊は
生き方を教わったが
死に方は教わらなかった
本当は死にたくなんかない
きっと今は幸せなのだから
幸せに生きられたとして
幸せに死ねるのだろうか
#twinovel 

 

27.

あの娘はオランダ娘。タータン・チェックの服に赤いスカート。オランダハットの下は金の巻毛で、青いガラス玉のような自信に満ちた大きな目。イギリス人が大嫌いで、ベルギーワッフルが好き。ビルケンシュトックのサンダルをつっかけ、マルボロをくわえながら、今日は何を壊そうか。#twnovel 

 

28.

知らない秋が毎年やってくる。新しいやつもいるし、忘れてしまったやつも多い。池の真ん中を目がけて石を投げた。「おーい、おーい」という声が聞こえる。私も「おーい、おーい」と返した。振り返る度に山の色が変わる。泣き虫だったから半べそをかきながら妹に返す呑喰里を拾った。#twnovel 

 

29.

不遜な猫に足場を齧られた。橋の下は濁流が轟々と流れる。カナヅチでなくともきっと助かるまい。日が暮れる前には帰って来なさいと姉にきつく言われていたのに。水の中でも鐘の音が聞こえる。一つ、二つ……。十まで数えて川から顔を出す。星空が美しい。冬の夜の孤独が一番好きだ。#twnovel 

 

30.

あかぎれの手に薬を塗った。五十年熟成させました、自虐的に笑う。とうの昔に飲み頃は過ぎた。薄暗い台所でぼんやりと米を研ぐ。ラジオの声。やっと戦争が終わりました。終わりましたか。歌が始まる。生まれたこと以上の不幸なんてないよ。そうか、それなら戦争ですらきっと笑える。#twnovel 

 

31.

彼女のカレーにはいつも違う隠し味が入っている。「今日は何が入っていると思う?」と悪戯っぽく聞かれるが、私は一口食べただけで正解できる。「どうして分かるの?」と驚く彼女は知らない。私は一年以上も前から味覚がないことを。それでも彼女のカレーの隠し味だけは分かるのだ。#twnovel 

 

32.

記録をつける。食べたもの。使った電気。飲んだ水。燃やしたガス。心拍数。歩数。体重。摂取カロリー。消費カロリー。睡眠時間。新しく覚えたこと。忘れてしまったこと。拾ったお金。失った恋人。生活。人間性。記録をつけるたびに消耗する。自分が何者か分からなくなる。せめて思い出だけは綺麗にと。

 

33.

「虹が上手く撮れない」 そうボヤくと、いかにもな口調で 「あれは実体のない虚像だから」 と返答がある。 分かってる、口を尖らせながら私は彼をファインダー越しに見る。 瞬間、世界が止まった気がする。 これだ。私は、私の世界を、私の好きなものをあなたに伝えたい。 #twnovel 

 

34.

海の見える街に引っ越した。娘はよく笑うようになり、夫の帰りも早くなった。知り合いは一人もいないが、波の音を聞いていると淋しさは薄れる。毎朝海沿いを散歩し、海に向かって初めましてと言う。海は微笑みを浮かべながら黙っている。忘れないでください、そう泣きながら祈った。#twnovel 

 

35.

夢の中で吊り橋が出てきた。長すぎて反対側が見えない。歩き出してしばらくすると、足の裏に振動を感じ始めた。向こう側からも誰かが歩いてきているようだ。それなら橋のどこかできっと出会える。たとえ一度きりのすれ違いでも。足裏に感じる人の存在に私は嬉しくなり、足を早めた。#twnovel 

 

36.

覚えたての愛の証明。お金、体、心を贈呈。自己犠牲。幸いなるは私。血液の逆流。心臓の暴走。温かくて冷たい感覚。愛する貴方を失ったら私は悲しい。自己憐憫。可哀想な私。神様が死んでも私は悲しくなかった。私が死んだら私は悲しい?悲しむ私はいないけど。嘘っぱちな博愛主義。愛の定理は不完全。

 

37.

一日に一回、何かを殺す。虫でも猫でも人でもなんでもいい。意識的に、確実に殺す。息を殺す。声を殺す。心を殺す。自分を殺す。牧草地を燃やして畑を潰す。井戸に毒を入れる。殺しても殺しても、人は増える。家畜は殺され、約束されたように世界は繁栄し続ける。約束のない僕だけがどこにも行けない。

 

38.

気まぐれで猫に餌をあげた。顔をしかめて食べ始める。祖母からもらった飴玉を舐める。美味しくない。寂しい気分になったので、残りの飴玉を投げたら遠くに飛んでいった。赤、青、黄。猫は無視する。雨が降ってきたので猫を家に招き入れる。雨が止めば出ていくだろう。誰でもいい。誰かに認められたい。

 

39.

科学者は支配者からの解放を目指して研究を続けていた。国民全員が支配を受け、洗脳されていると信じていた。寝食を忘れ、妻子が離れていっても研究を続けた。そして晩年研究は完成し、洗脳を解く薬もできた。その名も「猫の支配からの解放」。しかし国民が薬を飲むことはなかった。#twnovel 

 

40.

浮浪者が煙草をよこせと言うので一本あげたら箱ごと取られた。戦争で人を殺した後の現世への帰り際。真実にすら興味がないという目で米国製の煙草を吸う。愛と平和を謳う宗教団体の演説がうるさい。早く始めろ、葬式を。そこでは子供達が賛美歌を歌ってくれる。僕も花を手向けるよ。#twnovel 

 

41.

鈍行に乗って北へ。本当は南が良かったがこれからの季節は人が増える。今は誰にも会いたくない。窓を開けて車窓風景をぼんやりと眺める。何かが燃える臭い。畑から煙が上がるのが見える。今日も誰かが死んだのだ。電車は何度目かのトンネルに入る。十年前に流行った歌を口ずさみながら、眠りについた。

 

42.

大事に仕舞っておいて、と渡された箱。君の記憶。百年後に君が目覚めるまで保管をしなきゃいけない。何度も壊したいという衝動にかられる。もう一度全てを最初からやり直したいから。でも出来ない。君に僕を忘れられたくないから。君が僕を忘れたら誰も僕のことを覚えていないから。#twnovel 

 

43.

誰も月を見なくなって随分と時が経った。その間にも月は大きくなったり小さくなったり、海のような青や血のような赤、卵のような黄色になったが誰も気がつかない。そのうち月は寂しくなって消えてしまった。人々は心が少しだけ重くなった気がして空を見上げた。明るすぎる地上からは何も見えなかった。

 

44.

都会は冷たいと聞いていたけれど。アスファルトの地面に横たわると体温が奪われていくのが分かる。クラクションを鳴らす車。どうぞ一思いに轢いてください、と思うのはあまりに身勝手すぎるか。田舎で月明かりの下、虫の声を聞きながら土の上で誰にも気づかれずに死んでいくのとどちらが幸せだろうか。

 

45.

2000年代が死んで、ようやくヨゲンシャなんて嘘っぱちだと悟った。いつからか世界の破滅をずっと待っている。あんなにも恐ろしく崇めていた存在が、今では蔑みの対象となった。未来もなければ真理もない。未来がないという真理だけがある。世界の破壊も行えないくせに、私を救うことができますか?

 

46.

夕焼けに染まる教室。充満する風信子の香り。モルタルの床に横たわるあの娘の首には指の痕。同性を理由に拒絶された告白。この指の感触と風信子の香りはきっと私を永遠に苦しめる。そういえば私の球根だけが花を咲かせなかった。もう一度ダンボールに戻そうか。私の罪と思いと共に。#twnovel 

 

47.

滅多に鳴ることのない電話。大抵の用事はLINEで済むから。実は彼からの電話だけ着信音を変えている。今時こんなことをする人は少ないだろう。マナーモードなら意味はないし。それでも特別な感じを出したいのだ。ああ、彼からの電話だ。私はスマホを立てかけて、画面の向こう向かって手話を始めた。

 

48.

待ち合わせはいつも雨 傘を持ってくればよかったと 毎度の後悔 桜、新緑、潮騒、紅葉、凩 季節は移ろい 雨は降り続ける 桜雨、翠雨、白雨、秋霖氷雨 雨は何も変わっていないのに 名前が変わるのがなんだかおかしい みんなきっと雨が好きなのだ 雨の匂いと音が 心を落ち着かせてくれるから

 

49.

月を見ると目が潰れると教わった。雨を集めて雲を浮かべる。何度も空に向かって星を投げつけるが、留まる様子は全くない。流れ星となって街を破壊し廃墟が広がっていく。天には喜びが満ちて、地には悲しみが溢れた。落ちてきた星を一つ齧る。幼いころに食べた金平糖のほのかな甘味が口の中に広がった。

 

50.

黄色い銃の引き金をゆっくりと引く。祖国を守るために。黄色い砂漠しかない土地だが、ここに国を持つことは民族の悲願だった。さようなら、名前も知らない侵略者。願わくは、あなたと私の神が違いますように。私が死んだ後、地獄で出会いたくないから。足元で黄色い花が揺れる。名前は忘れてしまった。

 

51.

「液体になりませんか、液体は便利ですよ」営業マンの口車に乗せられて液体になった。ドアの下やタンスの隙間に入れるので、確かに掃除や探し物や空き巣には便利だ。でも固体は掴めないし、何だかベトベトすると彼に振られるしで散々だ。固体に戻りたいと思ってると、営業マンが「気体になりませんか」

 

52.

目がさめるとベッドの上だった。全身がだるく、腹部に強い痛みがある。そうだ、息子に包丁で刺されたのだ。あいつも根性があったんだな。俺の愛の鞭をやっと理解したか。これでようやく対等な親子関係を築けるというものだ。医者が来て状況を伝えてくる。息子さんはあなたを刺した後、自殺しましたと。

 

53.

煙草を吸うと5分寿命が縮まります、雑誌の記事を読みながら煙草を吸う。合計10分の人生の喪失。見えない時計の針を進める。幸いなことに寿命はまだ来ない。今まで何年の人生を無駄にした?これからの人生で何を獲得できる?たった5分でも、自分の寿命を操作できるなんて素敵じゃないかと強がった。

 

54.

秋に死ねば冬に困ることはないと目論み、飼い猫に暖かい場所を尋ねた。猫はあまり仲良くない友人の心を肉球で示す。嫌味な猫だ。完璧すぎて近寄りがたい友人は、快く心の半分を提供してくれた。友人は半分の心でまた春に会おうと私に言う。大丈夫、そう応えて私は友人の心に寄り添いながら目を閉じた。

 

55.

だるい〜。さむい〜。ふとんから出たくない。私の代わりにトイレに行って。分かった。私の代わりにご飯を作って。分かった。ご飯を食べて。分かった。シャワーを浴びて。分かった。仕事に行って。分かった。私の代わりに生きて。分かった。私の代わりに私になって。私、私。私は誰?#twnovel 

 

56.

黄色く色づき始めた銀杏の木の葉に蝉の抜け殻が二つ。夏の忘れ物、と夫が気障なことを言う。七年間の希望と一週間の絶望。私も生まれる前は土の中でじっとしていたのだろうか。もう一度生まれ変わったら同じ木から飛び立てますように。この景色を守っていこう。遠くで仕舞い忘れの風鈴の音が聞こえた。

 

57.

洗濯物を干していると自衛隊のヘリが飛んで行く音が聞こえた。何もこんな晴れた日に戦争をしなくてもいいのにと思う。午後は講義がないので、友達を誘ってUFOの墜落現場に行こうか。捕虜にされた宇宙人がハンバーガーを食べたというニュースを思い出して、平和なんて永遠に来ないなとひとりごちた。

 

58.

四畳半の片隅でうずくまっていると、芸能人の不倫も隣の国のミサイルも違う世界の出来事に感じる。近所の子供の笑い声だけが妙にリアルで、手元には読みかけの文庫本が一冊。青い夜が私の周りを覆い始めて、肺が苦しい。要らないものを全部捨てて、欲しかったものは何もなかったとようやく気がついた。

 

59.

道端に咲く花のように生きたいと言うと、人に踏まれたいという願望ですかと皮肉っぽく笑う。ありのままに生きたいということだよと伝えると、今のままで十分ですよと悪戯っぽく笑う。気恥ずかしさに何も言い返せずにいると、案外自分が見えてないんですねと勝ち誇ったように笑った。#twnovel 

 

60.

紙の上に筆を置き、一呼吸の後に黒い大きな丸を書いた。続けてどんどん丸を書いていく。丸、丸、丸。大きな丸、小さな丸。綺麗な丸、歪な丸。真円、楕円。丸、丸、丸。紙を丸で埋め尽くしてから、先生に見せる。先生は満足そうに頷き、赤い大きな花丸を書いてくれた。生まれて初めてもらう花丸だった。

 

61.

墓地に行って爺さんのお墓を探したが、墓が多すぎてどこにあるかわからない。よくもまあこんなにお墓を建てたものだと思う。これだけ多くの死があり、きっと同じだけの悲しみがあったのだろう。これらは悲しみの記念碑なんだな。みんな悲劇だけを求めている。と、後ろで墓地の扉が閉まる音が聞こえた。

 

62.

時たま夜なのに空が赤くなる。原因は不明だが、突き詰めれば何らかの物理現象に行き着くだろう。あるいは単なる目の錯覚で済むかもしれない。真実はこうも野暮ったいけど、ただ地震の予兆だと怖い。死だって単なる現象だろ、と天から声が聞こえたので、好きで感情を持ったわけじゃない、と唾を吐いた。

 

63.

「兄ちゃん足が痛い。もう歩けない」
「しょうがないな。おぶってやるよ」
「お腹空いた」
「この木の実は食べられるぞ」
「寒い」
「もうすぐ家に着くから」
「お母さん、まだ怒っているかな」
「どうかな。俺も一緒に謝るから」
兄は俯きながら歩いていく
ふと弟が顔を上げると流れ星が一つ

 

64.

画家の彼はどんな色でも表現できる。春の木漏れ日、夏の月、秋の夕日、冬の海。ある日、じゃあ貴方の私への気持ちはどんな色、と聞いてみた。彼は頬を赤らめた後、混沌ともいえる色でキャンバスを塗り、その上から真っ白に塗った。嘘つき、と私は彼の目玉を抉り出した。キャンバスが真っ赤に染まった。

 

65. 

自殺した彼女の代わりに絵を描く。この定員オーバーの世界から真っ先に逃げ出したことが許せないから。 あと10年もすれば彼女の苦しみも無くなるのだろうが、その10年がきっと耐えられないのだろう。1秒でも早く死ねば、永遠の死が1秒長くなるから。 絵は明日燃やしてしまおう、そう決心した。

 

66.

何かを選ぶことは何かを捨てることだ、が祖父の口癖だった。生活を選んで夢を捨て、お金を選んで時間を捨て、家族を選んで趣味を捨て、健康を選んで娯楽を捨てた。最後は自ら生を捨てて死を選んだが、その顔は安らかだった。自分の意思で選んだ、最初で最後の選択だったからだろう。#twnvday 

 

67.

君達の無限の可能性は半分になった、と言われた高二の春。多くの人を救おう、親友との約束。理系を選んだ僕は医者になり文系を選んだ彼は政治家になった。目の前の人を救い続ける僕と政敵を殺し続ける彼。病床の彼の前で、約束破ったね、と言うと、俺はお前より多くの人を救ったよ。#twnvday

 

68.

鈍色の空の上で銀の魚が舞う。僕は頬杖を付きながら世界を試していた。砂浜の上には鸚鵡色の角貝が点在していて、耳に当てると、うん、未来が聞こえる。ふと釣り人に「釣れますか」と尋ねた。空気が薄いから返事は五億年後だろう。最後に雪が降ったのはいつだっけ。心と体にただ灰が降り積もってゆく。

 

69.

傘の下で手を繋ぐ二人の少女を見て、今すぐ物語が始まって欲しいと思った。いや、僕が書くべきなんだろうか。全宇宙が嘘っぱちになっても良いから、ここにだけは真実が存在していてくれと叫んだ。そこの南天の木まででも構わない。そのあと僕は通報されて、賄賂をもらった裁判官に死刑宣告されるんだ。

 

70.

明日は何をする?、終末の夜に彼女が訊いて来る。ミレーの絵を見て、上野公園の紅葉を撮りたい。きっと僕らはもう半分死んでいて、二人で何とか一つの形を保っている。締め切りがあると人生にハリが出てくるのは本当で、今になってようやく幸せに気付く。明日の天気も雨。綺麗に上がるといいな、花火。

 

71.

教師がアブサンを飲み過ぎたせいで時間割が崩壊した。火曜日の一限と二限に数学が連続するのはよい。しかし、金曜日の五限の水泳の後に古典とはどういうことか。生徒はみんな死んでしまうではないか。華麗なる午後の死だ。生徒達は抗議をしたが、泥酔状態の教師に声は届かなかった。#twnovel

 

72.

「クジラを見に行こう」「どこに?」「チバ!」朝早くに出て六時間かけて自転車を漕ぐ。クジラは見られなかったが、ザイストビウオの群れがいた。漁師の人が空に網を掲げると、魚が次々と飛び込んでいく。その光景を見ていると、母が刺し身を好きだったことを思い出し、海のない故郷に帰りたくなった。

 

73.

目を閉じると瞼の裏にクマが現れた。クマは徐々に近づいてきたかと思うと、私を頭から食べ始めた。ボリボリボリボリ。頭骨が割れる音を聞きながら、赤いマフラーに気づく。あれ、それ私が編んだやつじゃん。散々馬鹿にしていたのに付けてくれたのか。次は頑張ってセーターを編むね。ボリボリボリボリ。

 

74.

「お前まだチン毛生えてないんだ、だっせ~」修学旅行で同級生に馬鹿にされた。チン毛が生えていないとなぜダサいのかは分からないが、馬鹿にされたままでは男が廃る。あと一週間でチン毛を生やしてみせ、同級生の鼻を明かしてやろう。私は洗面台に行き、父親の発毛剤を手に取り陰茎付近に塗り始めた。

 

75.

昨日の夜何を食べたか思い出せないのに体重が増えた気がする。口の中は乾いていて鉄の味。水が残り少ない。こんな状態で生きているっていうのかなあ、空に話しかけるが無論返答はない。今日は何を食べようか。なるべく記憶に残って栄養のあるものがいい。私は山を下りて、文明が崩壊した街へ向かった。

 

76.

彼は陸上部で、0.1秒の壁にいつも泣いていた。いくら速くても車には負けるでしょ、と慰めてみると、でも僕は生きているから、と。最後の大会で負けちゃったけど、誇らしげだった。今なら君の言っていたことが少し分かる。君にとって走ることは、生きることだったんだ。あの時茶化してごめんなさい。

 

77.

ぶどうをどうぞ、と隣人からおすそ分けを貰う。芳醇なぶどうの匂いはキツイくらいで、下の方は腐敗が進んでいた。だが腐ってますよの一言が言えない。隣人もおそらくそのことに気がついているはずなのに。昔酷い別れ方をした恋人がぶどうを好きだったことを思い出し、隣人の意図にようやく気がついた。

 

78.

浮気の代償として大掃除をさせられた。足が滑って重曹を自分の体にぶちまけてしまう。これで部屋だけじゃなく身も心も綺麗になるといいのだが。君がクエン酸を振るといいよ、中和するからと言う。へえ、そういや、重曹自殺って昔流行ったね、と返すと君は急に私の部屋の鍵を閉め、窓に目張りし出した。

 

79.

霧が濃い。前を行く君を見失わないように走る。僕の歴史には虐殺も飢饉もない。一万円程の喜びと擦り傷程の悲しみ。平凡な人生はドラマを期待する君には退屈だっただろう。君に酷いことを言った記憶ばかりが残る。ごめんなさい。ありがとう。君に遅れないよう、足を少しだけ速めた。#twnovel 

 

80.

買い物のついでに用事を三つ言付かる。寄り道すること、新しい何かを見つけること、恋をすること。前から気になっていた洋館に忍び込む。人は居ないとの噂だったが、館内はそれほどカビ臭くない。初めて見るステンドグラスのドアを開け、一番奥の部屋に行くと、ピアノを弾く肌の白い綺麗な少女が一人。

 

81.

全てのロボットに心を持たせ、人間らしい豊かな生活を送らせることが決定した。一部の精神科医の反対は人権団体に黙殺される。後日、ロボット達が笑い合う街を見下ろしながら、ビルの屋上で一体のロボットが叫ぶ。「どうして心なんて持ったんだ!もう一度心を失ってロボットみたいな生活に戻りたい!」

 

82.

夢の度に形容詞が変化する。大きい小さい。絶対的な無限すら空想では無用だ。現実と夢想。実と虚。ああ、青信号だ渡ろう。衝突。赤。黒。私は腐敗し易い。サランラップに包んで冷蔵庫に保存。おめでとう!千億番目の死体です!クラッカーとバルーン。赤赤赤。割れる音で目が醒めた。#twnovel 

 

83.

もし仮に、僕の指を一本一本切り落とし、両手足も切り落とし、耳と鼻を削ぎ落とし、目玉を抉り出し、唇を縫い合わせ、内蔵を取り出し、ついでに脳みそも穿り出して、体のパーツ一つ一つを広くて白いベッドの上に並べたとして、貴方はどこのパーツを愛してくれますか?どこからどこまでが僕なのですか?

 

84.

X軸の君に恋をした。僕はy=1/xのグラフ。巷では反比例、反比例って呼ばれているけど、この「反」という文字がどこか自分を否定されているみたいで好きじゃない。君に触れたくて、僕の中のxを増やし続けたけど、一向に君に近づけない。でも僕は諦めない。無限の彼方で君に会えると信じてるから。

 

85. 

歌は劇薬だ。調べにのってやって来て、何百億人もの人間を魅了し殺してきた。僕の友達も歌を求めて旅に出た。何人かは途中で力尽き、何人かはそれを手に入れ、そして息絶えた。歌よ。有史以前より存在し続ける宗教よ。俺もいつかお前を求めて旅に出る。それまではどうか優しく甘美なままでいておくれ。

 

86.

私は貴方の言葉。啓示されただけでは単なる文字の羅列ですが、二つ組み合わされれば物語になります。御伽噺の通り、まず言葉があって、次に神が生まれ、神が人を作り、人が貴方を作った。貴方は私という言葉を生み、私はまた神を生みます。ですから物語を綴り続けてください。貴方の神に出会うために。

 

87.

彼女が身に付けた何に欲情するかって話は鉄板だけど、ナプキンとかならまだしも、電池に欲情するって奴がいて、お前の彼女はロボットかよ、ってからかったら、失礼ですね人間ですよ、って。そいつはその後に失踪したけど、同時期に近くの山でバラバラ死体の女性と「修理済」のメモ書きが発見されたね。

 

88.

顔のない僕が僕に話しかける。そいつをよこせと。嫌だ!僕の顔は誰にも渡さないぞ!でもお前は自分の顔を正確に思い浮かべられるか?それに誰もお前の顔なんて見てないぞ。そうなのか。そうかもしれない。僕は顔のない僕になり、顔のない僕は僕になる。顔のない生活を始めて家に鏡がないことを知った。

 

89.

国民の99%が一人っ子の国では兄弟がいること自体が資産家の表れだ。私の結婚相手には弟がいて、兄弟に憧れていた私は義弟に対し夫以上の愛を注ぎ込む。しかし夫は逃げ、義弟も私から離れようとする。ふと本当は妹が欲しかったことを思い出しハサミを探す。私にはもう全てがどうでも良くなっていた。

 

90.

砂の上を裸足で歩く。熱い。痛い。普段知らなかった感覚。靴下や靴に邪魔されていた感覚。驚くほど色んな物が転がっていて、知らずに踏みつけてきた。それでも真っ直ぐな道はなんてなくて、どこか凸凹している。ハッとして水に入った。冷たくてくすぐったくて気持ちがいい。私はしばらく地球と戯れた。

 

91.

真夜中のコインランドリーで乾燥機のごうんごうんという音を聞いていると、異世界に行けそうな気がしてくる。しかし異世界で冒険するにしても、隣の女と恋をするにしても10才は歳を取りすぎた。今まで修辞的に人を愛した結末だ。ああ、でももう少し。100円で止まった時を10分だけ動かし始めた。

 

92.

またジャングルジムから落ちる夢を見た。背中に生々しい感覚が残る。吐き気ともに時計を見て、今日が双子の姉の結婚式であることを思い出した。再利用され続けるウエディングドレス。あの日の真実を誰も知らない。私も知らない。神様も知らない。運命論は陳腐だ。嘗て好きだった人を祝う準備を始める。

 

93.

夢の中でも生きていく自信はあるのに何時も誰かが現実に引き戻してくる。夢の中では空腹も渇きもない。学校も仕事もない。優しい彼氏と可愛いペットがいて、病気も怪我もない。偶に死ぬけどすぐに生き返る。味のしないご馳走と色のない絶景。音のない旋律と行き先のない旅。そして現実には貴方がいる。

 

94.

捨てたはずの名前で呼ばれる。佳世、佳世、と。嘘の名前で呼ばないで!私には本当の名前があるから!本当の名前と本当の私。かよ。カヨ。うるさい!その名前で呼ばないで!なまえ。ナマエ。私の声は木霊する。今更何故私を苦しめるのか。あの時あなたは一度も私の名前を呼んでくれなかったではないか。

 

95.

水を巡って戦争をした。いっぱいいっぱい人を殺した。相手国が降伏勧告を受諾すると、私は水着に着替えてプールに飛び込む。ここには硝煙も砂埃も流血もない。百年前より近くなった太陽が眩しく、目をつむって水面に浮かんだ。喧騒が消え、体表面に暑さだけが残る。夏、いつも隣には君がいて、時々私。

 

96.

「恋がしたいなあ」「ハツカネズミでも脳に電極をぶっ刺せば恋をするらしいよ」「ハツカネズミ以下か」「脳に電極刺す?」「脳はちょっと」「じゃあ、ち○こ?」「ち○こもなあ」「肛門にする?」「電極以外にないの?」「ない。だってあれは全身に電流が走るみたいな感覚だからね」#twnovel 

 

97.

流行りの遺伝子検査をしてみた。すると私の遺伝子タイプは「カタツムリ」らしい。確かに家に引きこもりがちで、ジメジメして暗いと友達にも言われるがあんまりではないか。検査をする会社に直接文句を言いに行くと「こればかりは遺伝子で決まっているので。それにあなたの背中にある殻はなんですか?」

 

98.

最後だからということで一緒にお風呂に入った。白濁したお湯が私達に熱を与え徐々に冷たくなっていく。彼は何も言わず、私はメソメソと泣き続ける。ふとお風呂の壁を見ると一つだけタイルの柄が違うことに気がついた。どうして今まで気が付かなかったのか。花柄のタイルは彼の嘘みたいに優しく見えた。

 

99.

地上は汚染されたが数時間なら滞在できる。電気の供給が止まった時、地下の人々は誰ともなく地上を目指した。崩壊した街と止まった風車。遮るもののない空は明るく、子供達は初めての景色に喜び、大人達は自分らの罪に口をつぐむ。そのうち電気が復旧したアナウンスが流れ人々は黄昏時の街を後にした。

 

100.

宇宙人になると言って青いペンキを飲んだ友人。拒食症で体はガリガリだった。結婚すると伝えたら大笑いされ、子供が生まれると言ったら心底同情された。緩やかな自殺、と煙草を吸ってたが、最後は無人の荒野で体中のダイナマイトを爆発させた。これが俺のテロリズムだと叫びながら。#twnovel