日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

供養(過去のTwitter小説)

4年くらい前から書いていたTwitter小説とか。

諸事情でTwitterのアカウントを消してしまったため、ここにアップする。

ディスカヴァーのツイッター小説大賞に応募したのが懐かしい。

 

1.

肉体の繋がっていない精神と、精神のない肉体、どちらが不幸だろうか?その思いを具現化することのできない心、何の感情も抱かないただの肉の塊。きっとどちらも不幸なのだろう。そして、ベッドに横たわり、永遠に覚めない夢を見て微笑みを浮かべる彼女は前者だし、それを眺める僕は後者だった。

 

2.

生という一瞬を手放せば、死という永遠が手に入るなら、それは悪くないかもしれない。しかし、それは詭弁に過ぎない。結局の所、一瞬も永遠も相対的なのだ。頭の中では永遠の生を感じられる。死も実は一瞬で、次の瞬間には別の生が始まるかもしれない。そんなことを思うと少し救われた気分になる。

 

3.

気付いたら爪を噛んでいる。目眩。百円の飴は十分で食べ終わる。舐めずに噛んでしまうから。絶え間なく何かが襲ってくる。幻聴は聞こえない。イヤホンをしているから。幻覚は見えない。目を閉じているから。イヤホンをとったとき、目を開けたとき、聞こえる音が、見える景色が、幻なのか、真実なのか。

 

4.

置き忘れたマフラー。ボタン電池で動く人達。階段。段差。右足。左足。パンジー。紫。光。S字型の道。看板。顔写真。名前。存在。終電。駆け足。走れ。走れ。 #twnovel 

 

5.

そうして私達はオウムを飼い始めた。オウムは私達の代わりに思考し、話すことができる。そのうち私達はほとんどの仕事をオウムに任せるようになり、自分で考え行動することはほとんど無くなっていった。しかし、そんな私達でも賭け事をする時だけは真剣に考え、夢中になるのだ。 #twnovel 

 

6.

片足の巨人が立ち上がると、大抵バランスを崩し、家や森に手をつき破壊してしまう。巨人は申し訳なさそうな顔をするが、我々は文句を言うことができない。飢饉の時に食料として足を提供してくれたのは巨人なのだ。しかし、巨人が片足になるまで、彼が立ち上がれることなど、我々は知りもしなかった。

 

7. 

片足の巨人が立ち上がると、大抵バランスを崩し、家や森に手をつき破壊してしまう。巨人は申し訳なさそうな顔をするが、我々は文句を言えない。飢饉の時に、巨人は食料として片足を提供してくれたのだ。しかし、飢饉の前は、彼が立ち上がるところを、我々は見たことがなかった。#twnovel 

 

8.

ポストに手紙が届いた。汚い字で「世界に喧嘩を売りにいきます。同志募集」とある。幼い頃の僕の字に似ていた。その頃にそんな思いがあったことを思い出す。 でも僕は手紙を破く。そして変わらない日常が続く。世界に喧嘩を売ることなく。 今日もポストを覗く。何かを期待して。しかしポストは空だ。

 

9.

真夜中に泥棒が窓から入って来て、「あなたが心から大切に思っているものを盗んでいきます」って言った。その瞬間目の前が真っ暗になって、気が付けば朝だった。盗まれたものを知ろうと、必死で部屋の中を探したけど結局何が盗まれたか分からなかった。元々そんなものなかったのかもしれない。

 

10.

一番古い記憶は、軒下で雨が降っているのを眺めている光景だ。僕の時間の概念はその瞬間始まり、僕の中で永遠は失われた。そして僕は、少しずつ終りを、死を意識し始める。それを考えると、何か不思議な感じもする。僕は自分というものを一度雨に託したのだ。そしてそれは今も続いているのだろう。

 

11.

昼にしか飛ばないフクロウを求め続けた私は、家族・仕事・住む場所を失った。そのフクロウを見つけるために今日も森に入る。今日はよく晴れている。耳を澄ませ、目を凝らし、必死でフクロウを探す。突然空が闇に覆われ夜が来た。日蝕だ。次の瞬間何万というフクロウが森を覆い尽くすのを私は見た。

 

12.

電車がいつしか移動のためだけのツールではなくなった。窓はキャンバスであるし、車内はアトリエである。時速60kmが見せる世界は、ただ眺めているだけの僕にゆっくりと、だが確実に変化をもたらした。朝7時の景色と夜7時の景色はどうしてこうも違うのか。そして人々も。 #twnovel 

 

13.

それは美しい世界がもたらしてくれる単なる感動という心の微かな震えなんかではないし、普段気付かなかったもの達のふとした発見というものでもなかった。それは気付かないうちにゆっくりとやってくるのだ。そして、ある日を境に僕を決定的に変えてしまうだろう。 #twnovel 

 

14.

大学生の頃に使っていた地下鉄が思い出される。電車に乗っている間、外の景色は何も見えない。壁がひたすら流れていく。一秒前の壁と二秒見える壁は何が違うのか、僕には分からない。車内には何も見ていない人達が溢れている。 #twnovel 

 

15.

猫の会議にゲストとして呼ばれたのだけれど、町内中の猫が集まっているはずなのに、数が足りない。近くの猫に聞いてみると、黒猫は群れるのが嫌いで、会議もサボるやつばかりらしい。猫の間でも問題になっているそうだ。議題は町内の餌場を如何に増やすかについてだった。#twnovel 

 

16.

幼い頃から書き溜めたノートをもう一度開く。左側には死んでもやりたいこと、右側には死んでもやりたくないことが書かれている。当然左が多いが、右だけが俺を待ち受ける。死んでやりたいことをやろう。そう思うが、一番左上の文字が俺の決意を止める。死んでもやりたかったこと。それは生きること。

 

17.

網目状に繋がった世界で、私は彼への最短経路を探す。 上からじっと見てみるが、ごちゃごちゃしていて検討もつかない。遠回りに見える道も意外と近道なのかもしれない。 ぐっと息を吸って一歩目を踏み出す。 その瞬間足元の道が崩れ落ちることを覚悟しながら。 #twnovel 

 

18.

曇り空の下「綺麗な星空ね」と彼女は呟く。海に沈んだ街の中で、無数の電灯だけ光る光景が眼下に広がる。「人は安心と引き換えに、空から星を奪った。そして、今はその偽りの空が私達の心を癒す」皮肉を言って彼女は街に石を投げ込む。パリンという音と共に星が一つ落ちた。 #twnovel 

 

19.

その瞬間、全ての時が止まった。機械も、動物も、植物も、人間以外の全てが動かなくなった。人々は戸惑い、怒り、悲しみ、そして諦めた。一時間後また時が動き出した時、人々の顔には少しだけ平穏さが戻っていた。神様がくれた特別な時間だったかもしれない。 #twnovel 

 

20.

太陽は少女のものだった。村人達は、少女を神のように扱った。ある日旅人がやって来て少女と恋仲になった。旅人は少女と共に村を出ようとしたが、村人達によって村から追い出された。少女はそれを知り、太陽を隠してしまった。それから少女の泣き声が絶えず、村では雨が降り続ける #twnovel 

 

21.

彼女が僕の耳元で「……あげる」と囁く。何がもらえるのだろうか。よく聞き取れなくて、僕は聞き返す。「だから、……あげる」「ごめん、大事な所が聞こえない」「コロシテアゲル」 ああ、彼女からの愛をようやくもらえるのか。 #twnovel 

 

22.

自殺した彼女の携帯番号。今は別の誰かが電話に出る。自殺した彼女の住所。今は別の誰かが住んでいる。自殺した彼女の服。全て燃やしてしまった。自殺した彼女の写真。これも燃やした。彼女が大事にしていた本。これはとってある。彼女が何処かで息づいている。死が街を包み込む。 #twnovel 

 

23.

神の前に三人の罪人が並ばされた。神が問う「この箱には真理が入っている。その色を答えよ」。 左の男が言う「赤」。彼は火の地獄行き。 真ん中の男が言う「青」。彼は水の地獄行き。 右の男が言う「透明」。彼は盲目で色を知らない。しかし、彼は解放された。箱は中は空なのだ。 #twnovel 

 

24.

枕元に砂時計を置いている。寝る前にそれをひっくり返す。一日にどんな嫌なことがあっても、それで巻き戻るような気がして。サラサラと落ちる砂を眺めている時間が、私にとって唯一の安らぎ。自分だけの、止まった時間。砂が落ち切ったあと、私は少し大人になった気がする。#twnovel 

 

25.

散歩の途中で急に立ち止まりたくなる。何故かは分からない。そこが居心地いいんだ。そこから見える景色、人々から目を離すことができない。ご主人は早くってリードを引っ張るけど、もう少しだけそこにいたいんだ。ご主人は何でこれが分からないんだろう。世界はこんなに美しいのに。#twnovel 

 

26.

深い水の底で横たわる。音が弾かれるたびに、水面に波紋が広がるのが見える。 ここに届く音はほとんどない。暗い、深い、重くて低い音だけが私の元に届く。 それは時計の鐘の音のように聞こえた。 そうだ。時間だ。手を伸ばす。水面に向かって。精一杯、手を。 だが、届かない。 #twnovel 

 

27.

深海は音が澄んで聞こえる。体の力を抜く。口から出た泡が水面にゆっくり上がっていくのが見える。 自分が水になったイメージを持つ。息を止めて。目を瞑っても、目の前にある青がはっきりとイメージできる。 ここは暗い。深い。そして、美しい。ずっと昔から何も変わらない。 #twnovel 

 

28.

走馬灯を売る仕事をしている。一人分で時間は一分から三分。長くても五分。どんな人生でも、五分を超えることはない。有名人のものなどはよく売れるが、家族も友達もいない人間のものはいつまでも売れ残る。そういうのは、倉庫の奥に仕舞っておく。いつか暇な時にゆっくり見るのだ。#twnovel 

 

29.

走馬灯を売る仕事をしている。要は他人の人生の覗き見。一人分で時間は大体一分から三分。長くても五分。どんな人生でも、五分を超えることはない。そして、多分見た人間のほとんどが明日には忘れてるだろう。でもどんな人生でも、一人は真剣に見てる人がいるから不思議だ。 #twnovel 

 

30.

色んな人間の走馬灯を見たが、つまらないものは確かにある。それは見てて苦痛だが、見ることはやめない。私が見なければ、その人のことを誰も覚えていなくなるから。いつか私が死ぬ時も、走馬灯には一人でも多くの人間を思い出そう。そうすれば、きっとまた誰かが覚えてくれるから。#twnovel 

 

31.

妻が亡くなり寂しいので猫を飼い始めた。懐かず、暴れては物を倒す。ある日倒れた写真立てを見たら、子供達の写真の裏に我々夫婦の若い頃の写真が入っていた。妻が入れたものか。よし、明日は写真立てを二つ買いに行こう。若い夫婦の写真と、老人と機嫌の悪い猫の写真を飾るために。#twnovel  

 

32.

何でもできる男がいた。何かを願い、目を閉じ、開けるとどんな願いでも叶う。金を願えば目の前に大金が現れたし、絶世の美女を願えば、目の前に美女が現れ彼の頬にキスをした。 ある日、自分の俗物さと人類の愚かさを嘆いた彼は、こう願い目を閉じた 「次に目を開けたら人類から愚かさが無くなる」
だが、人類の愚かさというのは、人類が持つ本質的な物で、それは願ったところで消える物でない。愚かでないと人類は人類でなくなる。そもそもこの願い自体が愚かだったのだ。 彼はジレンマに陥った。しかし、すぐ解放された。 彼の目は二度と開かれなくなったのだ。 #twnovel 

 

33.

脳の病気で色を失い、世界がモノクロになった。華やかな緑だった庭も、美しい金色だった妻の髪も、透き通るような青だった娘の瞳も、全部色褪せて見える。夢の中のようだ。だけど、濃淡と陰影だけがくっきりして、今まで気がつかなかった世界、欠けた世界が、鮮やかに映し出される。#twnovel 

 

34.

彼からの手紙はいつも煙草の匂いがした。私は彼の文章とその匂いが大好きだった。 今日、久しぶりに手紙を開くと、匂いはすっかり消えていて、文字も薄くなっている。何て書いてあったっけ。ふと縁側から夫が吸う煙草の煙が匂ってきた。その瞬間、大好きな彼の文章が思い出された。 #twnovel 

 

35.

彼からの手紙はいつも煙草の匂いがした。私は彼の文章は好きだったが、その匂いはあまり好きでなかった。久しぶりに手紙を開くと、文字は薄くて読めない。何もかもが、悲しいくらい色褪せてしまった。私は手紙に鼻を近づけ、匂いを嗅いだ。古い紙の匂いと、少しだけ煙草の残り香。#twnovel 

 

36.

この雨に秘密を隠そうと思った。兄の本を盗んだ。母のペーパーナイフを盗んだ。父の万年筆を盗んだ。同級生のゲームを盗んだ。学校からテスト問題を盗んだ。親友の彼女を盗んだ。親友の命を盗んだ。盗んだ。血塗られた罪深い手。雨よ、洗い流して。汚い、汚い、と僕は雨に打たれる。#twnovel 

 

37.

既視感。目覚めた瞬間に気付いた。また同じ人生だと。輪廻どころではない。同じ輪をぐるぐる廻っているんだ。死ねば、生まれた瞬間に戻る。もう何度目かも分からない。百以上は数えてない。色んな人生を楽しむのも飽きた。今はただ、次こそ自分の意識が無と化すことを期待するだけだ。#twnvday 

 

38. 

今日雨が降ってよかった。講堂には町の代表が集まっている。表向きは、講堂裏の崖の補修についての話し合いだが、実際は補助金の取り分の計算だ。補助金は崖の補修のために出たというのに。まあ、いい。この雨で今日、裏の崖崩れが起きる。そうすればこの町の膿は綺麗に取り除かれる。#twnvday 

 

39.

彼女の体を抱く。少し固い。ゴツゴツして、角ばっている。肌だけが妙にスベスベしていて、冷んやりしている。細い腕。力を入れると折れてしまいそうだ。しかし、抱き返してくる彼女は力強い。こちらが折れてしまうかも。腰回りは僕と変わらない。キスをするとオイルの匂いがした。#twnovel 

 

40.

叶わぬ恋する人から気持ちを買い取っている。マンネリ気味の夫婦や、独身の金持ちに売るのだ。今日私が密かに恋をしている男性が来た。とびきりの恋が欲しいらしいので、昨日恋のあまり自殺寸前の人から買ったものを売った。彼はそれを買った瞬間、部下の男性とホテルに消えて行った。#twnovel 

 

41.

突然の停電で、暗闇が襲って来た。誰ともなく、止まったエスカーターを登り始める。汚染されて人の住めない環境になった地上に向かって。地上に出ると、ビルは風化して遺跡のようだった。空気が妙に澄んでいて星がよく見える。大人も子供も黙って星を見る。いつかこの景色が当たり前になることを願って

 

42.

旅人に尋ねてみた どこまで行くのかと いつになれば終えるのかと 旅人は答えた 終わりなどはないさ 終わらせることはできるけど 終わりはあるよ。 あなたの死に場所。 お花畑。滝。草原。静かな、雲が流れる、誰もいない。そんな場所。 そこで死ね。 そこが旅の終着地。

 

43.

この地では降った雪が音を消し去る。夏や秋の間に積もった汚れを雪が吸い取る。そしてそれを燃やすのだ。大量の雪の灰が生まれる。それは来年、畑の肥料となる。消えていった音、汚れ、そんなものは全て灰になって土に還っていく。だが、使い切れない分は埋め立て地へ持っていく。誰も近づかない地へ。

 

44.

あなたの心の傷が、その体の傷のように、目に見ることができたらいいのにね。体は傷ついているのが分かっても、心が本当に傷ついているかは分からない。その涙は本当に心から流している?心の血の色も赤いのかしら?あなたの心が折れる音を聞いてみたい。支配したい。あなたを。心から。

 

45.

死ぬほど眠りたい。死ぬほど食べまくり、死ぬほどセックスしたい。所構わず怒りまくり、他の人間を妬み続けたい。お金も、名誉も、地位も、何もかもが欲しいし、プライド高く、他の人間を見下したい。恨んでる。憎んでる。裏切りたい。殺したい。死んでほしい。死にたい。僕の罪はこんなんじゃ足りない

 

46.

一日一人だけの人間とずっと対話をしても、一年で365人としか話せない。しかも、一日だけだと、ぼくの考えの100分の1も伝わらないだろうし、彼の考えの1万分の1も理解できないだろう。それでも対話を続けて、いつか分かり合えるんだって信じて、その結果が正義でも偽善ですらなくただの利己

 

47.

正しい戦争をしよう。正義の心で、正確に相手を殺そう。正義の血を流そう。正しい拷問を、強姦を、殺戮を。神様が認めてくれた、民衆が認めてくれた、上官が認めてくれた、正しい、正義の戦争を。決められたルールを守りながら、誰にも批判されることなく、正しい戦争を行い、相応しい死を迎えよう。

 

48.

心が乾いたのならば、水を飲んで。歩き過ぎた、泣き過ぎたのかもしれない。ここにあるものたちは、一々私に何かを訴え、しかし私に何かを求めるのではなく、ただただ私を摩耗させる。可哀想だと、救いたいとも思うけど、力が足りないか、時間も、それとも勇気が。そもそも無理なのか。心が渇く。

 

49.

始まりは雨。終わりは虹。雪は穢されて、陽に当たって消えていく。雹のような、石のような、強い意思であったけれど、稲妻のように、一瞬光って何処かに落ちていった。生かすのが神の意思ならば、死せるもまた神の気まぐれなのだろうか。この地上に現れたことに後悔はないけれど、宇宙はまだ遠い。

 

50.

貴方はきっと忘れてしまっているだろうけど、もう何十年も前に私達は出会ったことがあるんですよ。若葉が萌える頃、夏の匂いが徐々に香り始めたあの季節、この世の果てみたいな場所で私達は会いました。あそこには何もかもがあって、何もかもがなかった。人も家畜も魚も植物も何もない、そんな場所。

 

51.

ここはこの世の果て。何もかもがあり、何もかもがない。全てはここから生まれ、ここに還ってくる。人も動物も植物も、大地も海も空も、光や闇も時間でさえ、何もない。「無」だ。死の世界。だが、死の世界だからこそ、ここから全てが生まれていく。ここは寂しい場所だ。孤独に魂の循環を待つ僕等。

 

52.

「今日学校で〜」月曜日。一週間際限なく続く彼女の話が始まる。この話ももう何度目か。僕の曖昧な相槌に対し、彼女は嬉しそうな顔をする。ループ。決して尽きない、しかし新しい話はない。僕は知らなかった。自分が死んだことに気付かない存在がこんなに悲しいものだと。 #twnovel 

 

53.

神が「どんな願いも一つだけ叶えてあげよう」と言った。僕は「一生使いきれないくらいのお金をくれ」と願った。「ではお前の銀行口座を操作しよう」と言い神は消えた、と思ったらすぐに現れ「プログラム弄ったらバグが出て上司に怒られた。少し待って」と再度消えた。それから一週間何の音沙汰もない。

 

54.

畳の上に寝っ転がっていると、猫がお腹の上に乗ってきた。猫の体温が伝わって、お互いのお腹が汗ばみしっとりとしてくる。初めはただの花の雄しべであった天井のシミは動き続け、蝶となり、梟の目となり、波となり、雲となり、迷路となり、寂しさとなり、絶望になって僕らを食いつくそうとしていた。

 

55.

あちら側に行きたければ海を渡りなさい。 こちら側に来たければ山を越えなさい。 この場に留まるのであれば、井戸を掘りなさい。 深い井戸の底で、太陽を探しなさい。 目を焼かないように気をつけて。 真っ暗な井戸の底から見える太陽が、偽物が本物かは貴方には分からないだろうけど。

 

56.

地面を掘りなさい。 一日掘れば水が出ます。 二日掘れば温泉が出ます。 三日掘れば石油が、四日掘れば金が出てくるでしょう。 五日目、何も出てこなくなっても、貴方は掘ることをやめられないでしょう。 何かが出てくるというまやかしの希望に囚われて、貴方は一生地面を掘り続けるのでしょう。

 

57.

夜空の星はガスや鉱物の塊。 オーロラは巨大なネオンサイン。 海に沈む夕日は核融合エネルギー。 滝や湖は水が集まっただけ。 ダイヤは炭素の塊。 虹は光のスペクトル。 恋は脳内物質量の増減。 突き詰めれば、真実は野暮ったい。

 

58.

あの土地に住むのも良い、そんなことを考えながら旅を続ける。見渡す限りの大地は全て僕のものだ。仮に誰かが所有権を主張しても、関係ない。僕には空もある。空に浮かぶ星々は誰のものでもない。いつかあの小さな星に行こう。花を植えよう。何もかもやめて、一から始めよう。

 

59.

私はきっと雨だったと思い 昔行った景色を思い出す 道路の黒 空の灰色 草の緑 傘の赤 下から見上げる景色 人の足 鳥の声 憂鬱な猫 白線 でこぼこ 何もかもが色褪せず くっきりとした 輪郭と色を持っている 私がきっと雨だったら どこへでも行けるのに

 

60.

果たしてその手の中にある種を食べるのか、植えるのか。 食べたとしても、腐っていたら、どうするのか。 植えたとしても、地面が砂漠だったら、どうするのか。 食べもせず、植えもしないで、 捨ててしまうのであれば、私にください。 あなたの言葉を私にください。 #twnvday 

 

61.

一人が寂しいため、畑を作り、猫の種を植えた。素人が作ったため不格好だったが、愛着が出たのでそのまま収穫した。周りは潰して肥料にしろと言ったが、それはできなかった。収穫後も2ヶ月ほどは腐らずにいるらしい。恋人がほしいため、次は人間の種を植えてみようと思っている。 #twnvday 

 

62.

ずっと地獄に行きたかった。この世だって地獄、なんて言葉遊びは嫌いで。だって私はまだ何の罪を犯していないはずだし。ここは地獄じゃなくて、天国だって信じたい。少女的楽観主義。原罪?それはもう赦されたはず。あの荊の冠を被った王様のおかげで。キリスト教的罪と共に、手首の傷を一本増やした。

 

63.

殺すつもりはなかった。本当にただの純粋な好奇心で。赤と青の絵の具を混ぜたらどんな色になるんだろうぐらいの気持ちで。ナイフで刺したら、首を絞めたら、火をつけたら、毒を盛ったら。あっさりと、あっさりと、人は死ぬのだ。孤独はもう嫌だ。泣きながら、死体だらけの道を歩く。絵の具はもうない。