日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

Twitter小説101~200(20171027-20180216)

 
最近書いてないですが、100書いたみたいなので。
 
 
 
101.
金の絨毯が敷かれた並木道を歩く。春の頃よりもだいぶ膝の具合は良い。鶯の代わりに眼白が鳴く。極楽、と使い古された表現を使いたくなる小春日和。一瞬後に厳しい冬が来るが、憂鬱な気持ちは来年への約束だ。500mに1時間。誰よりも遅いが誰よりも穏やかに生きられる気がした。#twnovel
 
 
102.
古代地層で見つかった宇宙人の化石がその時代に飛来したものなのか、前の時代のものの子孫なのか、意見が分かれた。そこに突如宇宙船が現れ、遺骨を引き取りたいとの申し出があった。どうやらたまたまその時代に墜落したらしい。比較的若く見える宇宙人が現れ一言「息子よ、早目に見つかって良かった」
 
 
103. 
その日は記録的な量の秋刀魚が降った。街には生臭い匂いが充満し、人々は後片付けに一日を費やしてしまった。喜んだのは一部の猫だけ。これは不吉の前触れか、それともこれ自体が不吉の象徴か。困惑する人々へ預言者は語る「次は良き事が訪れる」。次の日記録的な量の大根が降った。#twnovel
 
 
104. 
人工芝でのセックスは人工の味がする、噂を真に受け真夜中の大学に忍び込んだ。グラウンドの隅で行う情事。正常位では背中が擦れて痛いが、気持ち良さそうな演技をする。成る程確かに人工的だ。彼が果てると人工的なキスをした。育まれる人工的な愛。天然の愛は月にあるのかな、と蛍光灯の下で思った。
 
 
105.
みんな眠ってしまえばいい
君と名前の知らない誰か以外は
そうやって街は美しくなる
誰も砂漠化を止められない
止めようともしなかった
空しさの種に水をあげ続ける
それを、行為と呼ぼう
人々は寄り添わないでほしい
全てが嘘になるから
冷たい電子の光の中で
もう二度と目は覚めないように
 
 
106.
「ゾンビですね」「ソンビだな」「先輩ゾンビものの美少女ゲーハマってたじゃないですか」「あれはなんとか意思疎通できるし、可愛いし。お前こそアクションゲーを」「あれは銃があったので」
 
「……」「……」 「この人間が出てくる美少女ゲー可愛くてハマるわ」「このアクションゲーもいいですよ」
 
 
107.
土を食べればどんな作物ができるか分かるようにですね、女性の血を舐めればどんな子供が産まれるかが分かるんです。それで理想の子供を産んでくれる女性を探して色んな人の血を舐めました。もちろんバレない様にこっそり。それでこの息子が産まれたんですけど愚図でね。やはり育てる環境も大事ですね。
 
 
108.
同物同治と言って体の悪い部分を治すには、その場所と同じものを食べるのがいいっていう考えがあってな、俺は心が壊れてるって言われたから人の心を食べ続けたんだよ。それで調子が良くなって、人の気持ちも分かるようになったのに、周りの奴等は俺のこと「人の心を持ってない殺人鬼」ってなじるんだ。
 
 
109.
彼氏があまりにもデートに遅刻するので時計に閉じ込めた。チクタクチクタク。時折助けてくれ〜と声がするが無視する。そこはいいでしょ。お腹は空かないし歳も取らないし。チクタクチクタク。私がお婆さんになったら行くから待っててね。待たされる人の気持ちを充分に味わいながら。#twnovel
 
 
110.
酸素の湖は青く猛毒だった。湖畔で煙草を売る男が一人。湖で煙草は吸えないが、形だけ真似する人が大勢いた。時々水晶色の魚が取れると慎重に火をつける。虹色の炎ならば湖には燃え移らない。パチパチという音とともに歌を歌う人々。青白い顔の人々が歌う歌は物悲しく、遥か遠くの故郷を思い出させた。
 
 
111.
塔の上から世界を見下ろす。街は不思議で常識は巧妙に隠されていた。七色の光の中から一つ家を摘み上げ手の上で弄ぶ。ハロウィンだからか死者の魂が呼応して青白く点滅をした。蝋燭に火をつけると塔がライトアップされる。これから生まれる魂と還っていく魂が一斉に燃え上がり、お祭りの終りを告げた。
 
 
112.
100社受けて1社最終面接にこぎつけた。社長の質問「内定のために何でもするとのことですが、内定辞退するなら内定出しますと言われたらどうしますか?貴方が答えて面接は終わりです」答えに詰まる。しかし何故かそのまま社長秘書として働いている。立場上はまだ面接中らしい。あれで良かったのか?
 
 
113.
拷問。目か耳か喉かを選ばされる。君の顔が見られなくなるのも、声が聞けなくなるのも嫌だから喉を選んだ。命からがら国に帰ると、君は別の男と結婚していた。君に声をかけたい。なのに声が出ない。あなたの歌声が好き、付き合うきっかけとなった君の告白をふと思い出してしまった。#twnovel
 
 
114.
中合わせに座る僕ら。僕は読書をし、君は編み物をする。引っ越ししたばかりで何も物がない。絶妙な力のバランスが必要な初めての共同作業。貧乏だけど幸せな距離感。背中越しに伝わる君の体温をただ愛おしく感じる。いつか僕らもソファを買うのだろうけど、それまではこのままで。#twnovel
 
 
115.
ゾクッとするよな。昼間から出ている月ってやつは。真っ白で、まるでお化けみたいだ。死んだ後の魂は月に行くって言うが、月自体が地球の死んだ後の姿みたいだな。地球は自分の死後の姿を常に見させられている上に、それに追いかけ回されているわけだ。嫌な気分だろうな。でもそれって俺らも一緒だな。
 
 
116.
孤独死ですって」「身寄りもいなくて」「死後一週間は経っていたらしいわよ」「生活保護でほとんどお金もなくて」「でも猫を飼っていたんですって」「それも何匹も」「まあ、自分の生活もままならないのに」「死んじゃった後、猫は餌をどうしてたのかしら」「それがね、死体を調べたら明らかに……」
 
 
117.
晴れる。腫れる。自分がただのグロテスクな肉塊であることを想像するのは容易だ。それなのにそれはお花畑の匂いがしている。嘘だな、嘘つきだ。本当はドブのような臭いがする。浮浪者のような。今の僕のような。君は浮浪者と踊っていたね。あの月夜の晩。大きな橋の上で。それは恐ろしく、美しかった。
 
 
118.
駐在先で「こんにちは」と日本語で話しかけられたので、つい「こんにちは」と返してしまった。そのまま結婚。「こんにちは」は現地の言葉で「愛している」の意味らしい。数年後ふと「あの時はつい返事してしまったよ」と現地の言葉で言うと、妻はニッコリと笑い「この辺、日本人の旦那さん多いでしょ」
 
 
119.
あっさりと、そんな、途切れることのない嘘のような。クモ、と名付けた。あの暑い暑い夏に。これ以上熱くなる必要のない夏に。玩具を披露するように。美しいとお前は言ったのか。冗談だろう。あれより美しいものは、おそらく、きっと、他にあるはずだろうと。だからもう一度歌おう。ヒグラシとともに。
 
 
 120.
パンを上手に焼くコツを聞いてきた。愛だのは邪魔で、味が濁る原因になるらしい。きちんと材料を量り、気温などの外的要因を整え、手順通りに焼くだけ。「料理は科学です」と先生は言い切った。だが、焼いたパンを食べて夫が一言「マーガリンが欲しいな」。一番必要なコツは味音痴好みの味付けだった。
 
 
121.
世界と私たち。並列繋ぎですか?直列繋ぎですか?あなたがいなくなったあと、世界は何でもないように動いています。本当に最初からあなたがいなかったみたいです。私だけが少し変わりました。そっちの世界はどうですか?誰かと繋がっていますか?それとも未だに孤独のままですか? #twnovel
 
 
122.
目が覚めたら部屋が広くなった気がする。いや、私が縮んだのか。アリス症候群だ。枕元にある読みかけの本に手を伸ばす。届かない。何故だ。思い切り手を伸ばしているのに。悲しい。国境の向こう側にあるみたいだ。せめてオチだけでも知りたい。さっきまで見ていた夢はどうなるのだ。#twnovel
 
 
123.
孤独だった頃よく一人で裏山に行った。頂上で「お~い」と言うと「お~い」と返してくれる私だけの友達。いつか一緒に遊ぶのが夢だった。大きくなり新しくできた友達と一緒に裏山へ行く。頂上で「ありがと~」と言うと「ありがと~」って。「私の友達」と言ってニコって笑うと、友達もニコって笑った。
 
 
124.
弟が生まれて酷く狼狽した。中学生という多感な時期で、親がまだその行為をしていることに驚いた。何よりも自分の代わりに弟を創り出したのではという疑念。親の顔を真っ直ぐ見られなくなる。大きくなる弟を見て邪悪な欲望が出てくることに気づき、逃げるように実家を出て、もう家族には会えていない。
 
 
125.
通勤途中で蟻の行列を見かけ、気付いたら私も後ろに並んでいた。同じ顔、同じ格好をした蟻たちが黙々と歩いて行く。「この行列はどこに向かっているのですか?」一番近くの蟻に尋ねるが返事はない。早く抜け出さないと遅れちゃうな、ぼんやりと考える。でも何に遅れちゃうんだろう。会社?結婚?人生?
 
 
126.
手を繋いでいれば悪夢を見なくて済む。だから眠っている間はずっと一緒にいてほしい。手を離してしまえば、私はきっと悪夢で死んでしまう。目が覚めている間はそばにいなくてもいいから。現実では一人で闘いますから。どうか夢の中では一緒にいてください。世界にあなたがいない悪夢を消してください。
 
 
127.
接着剤で指をくっつけてしまったような。思い切り引っ張れば離れるのだろうけど、同時に皮膚も破れだろう。痛いのは嫌だ。私の不注意、なのだろうか。事故に遭ったようなものだって友達は言うけれど。はがし液も用意しておけば良かったかな。もやもやした感覚を心に秘めたまま、今日も彼に会いに行く。
 
 
128.
お化け屋敷と呼ばれる家に住んでいる。蔦が壁一面に這った薄暗い雰囲気の館。訪れてくる者はおらず、孤独だけが友達だった。誰でもいいからここから連れ出して欲しい。執事でも郵便配達員でも変質者でもいい。お母様、と呼ぶが返事はない。ノックの音。息を殺す。お化けだけには見つかってはならない。
 
 
129.
双子が水溜りで遊ぶ。泣けるほど空が透き通っていて白い。ここはアウシュビッツだ。魂と云う文字にも鬼がいて、私達は人殺しの血を引いている。黒い鳥が白さを求めて水に飛び込んだ。無駄だよ。なのにバシャバシャと音を立て翼を打ちつける。昨日よりも1m高い壁。そこを超えられる者はもう誰もいない。
 
 
130.
知り合いのいない町に引っ越した。一週間後、散歩をしていると小学生が「こんにちは」と挨拶してきた。気持ちのいい朝だ。と思っていたら、主婦に「〇〇さん、こんにちは」と言われる。おかしい、その名前は明かしてないのに。すると警官が「〇〇さん、山に死体を捨てたら駄目ですよ。山が汚れるから」
 
 
131.
土手から転げ落ちる。自転車は遥か彼方に飛んでいった。すれ違うトンボがみんな目を回す。待ってよ~、と泣きながら追いかけてくる弟。ススキの声が風でかき消された。何もかもが赤くなる夕暮れ。どこまでもどこまでも手が届くと信じていた。夕焼けよりも赤い血が流れる。でも、もう泣かないと決めた。
 
 
132.
カモミールミルクティ入れたよ。よく眠れるって聞いたんだ。蜂蜜もたっぷり入れたから、きっと大丈夫。クッキーも焼いた。少し焦げたけど。午後はずっとずっと長いから、手紙を書くのはゆっくりでいいよ。返事はどっちでもいいよ。最悪白紙でもいいよ。ごめんね。一生分の涙を流す覚悟はできてるから。
 
 
133.
✖✖教の教えでは△△という神様が人類を創造しました。△△を生んだのは◻◻という神様です。◻◻という神様はある日突然に地面から生まれました。その地面を含む世界を作ったのか〇〇という神様です。その〇〇という神様は宇宙からやって来たのですが、宇宙を作ったのが……。#twnovel
 
 
134.
「飼い犬に手を噛まれたみたいだ」私を縛り付けながら夫が言う。私を飼っているつもりだったらしい。なんて奴だ。もっと思い切り刺せば良かった。食事もお風呂も散歩もしないくせに私を飼っていただと。婚姻届と首輪だけで飼い主気取りか。ふざけるな。眠っていた血が蘇り、私は夫の首筋を噛み付いた。
 
 
135.
母と妹が氷の塊を吐き出すようになった。同時に病気になったらしい。医者に相談に行くと、母は勝利条件が揃っているが、妹は揃っていないから治すのが無理だと言われる。勝利条件とは?ごく普通の幸せとやらで結婚して子供を産むことらしい。私は一生このままでいい、大きな氷の塊を吐いて妹が叫んだ。
 
 
136.
自転車の籠が壊れた。勉強道具とかダンベルとか猫とかゴミとかあゆみ(成績表)とか、とにかく色々と入れすぎたみたいだ。でもどうしよう。虫取り名人の僕は籠がないとカブト虫を捕まえられない。悩んでいると猫が不満そうに、にゃお、と鳴く。そうだな、父さんに新しい自転車をおねだりしてみようか。
 
 
137.
「イカゲソ好きなんだよね」と言うと、次の日彼氏がイカ猫なる生物を連れてきた。顔と体が猫で足はイカ。キモい。足は食べても再生するらしい。キモい。正直にそれを口に出すと、イカ猫が彼氏の声で急に話し出した。「キモいとは何ですか。私はあなたの好きなもの二つが組み合わさった究極生物ですよ」
 
 
138.
花が枯れていくように、人は骨になる。その中間くらいで留めておきたい。枯れかけの、死にかけの、最期の時の輝きのようなものを、ガラスケースに入れて永遠に閉じ込め、眺めたい。石が砂になるほどの長い年月が経っても不変のままで。ケースの上から砂をかけたら思い出してくれるだろうか。あの夏を。
 
 
139.
街を歩くといつも考える。この中で、何人の人が昨日愛する人を失って泣き、何人の人が今日人を殺して笑ったのだろうと。統計学の前で人の死は無意味だが、愛はどうだろうか。ここで「わーっ!」と叫んでみても誰も僕を覚えてくれない。忘れ去られるのが怖い。だから人を愛し、殺し、詩なんて詠うのか。
 
 
140.
Bitcoinが急落し、マイニングのために「ヤシマ作戦」と称して日本中の電気が止まりました。みんな歩いて家に帰ります。久しぶりの夜空はたくさんの星が瞬いています。あの明るい星は金星です。金星では金が採れるので、みな行きたがります。でもこの夜空も仮想です。それを知るのは僕とレイだけです。
 
 
141.
目の前のカードを開けば勝敗は決す。2gにも満たないものが鉄のように重い。運命は既に決まっているのに、観測されるまで分からないと言ったのは誰だっけ。いっそあの実験のように……。突拍子もない考えを頭から消す。深呼吸をしてカードを開く。次の瞬間、カードからは猫が飛び出して来た。#twnvday
 
 
142.
気まぐれに、世界堂でボールペンとクリスマスカードを買った。君に向けて「メリークリスマス」と書く。今、君は何処に居るのだろう。地球の反対側かもしれない。真夏のクリスマスはきっと楽しいだろう。まあ良い。何処に居てもクリスマスはクリスマスだ。宛先のない手紙をポストに投函した。#twnvday
 
 
143.
一億分の一の特別な自分というのにも飽きたのでクローンを作った。同じ行動を続けていれば、いつか人格が消えるだろう。しかし、完全に同一な動作は難しい。些細な綻びは日に日に大きくなっていく。カオス理論だ。10年後、似ても似つかない姿をした僕と、僕が同時に叫ぶ。 「お前は誰だ!」 #twnovel
 
 
144.
雷様は食感が苦手でヘソが嫌いでした。風神様に相談すると、代わりにこれを食べればいい、と言われごま蜜団子をもらいました。お団子のごま蜜は甘く、ごまの風味も素晴らしかったので、雷様は夢中になりました。以降人々はヘソを取られることはなくなり、雷様の代わりに雲が忙しく雷を落としています。
 
 
145.
キーンという耳鳴りがずっとしている。何時も同じ所から。多分、そこだ。行ったこともない宇宙に思いを馳せる。故郷。私にとってはあの場所がそうなのかもしれない。昆虫みたいに。呼ばれているのだろうか。メーデーメーデー。電波な振る舞い。聞こえているだろうか。星は何も答えず、静かに瞬いた。
 
 
146.
大盛り無料と言われたらついお願いしてしまうような性格。それを食べ切れるのかもわからないのに。駅前でもらったポケットティッシュが溜まっていく。消化不良。タダより高いものはないとおばあちゃんも言っていたのに。でも有償の愛ってなんだ。どうして私は一人でラーメンを食べて泣いてるのだろう。
 
 
147.
人々に忘れられた赤服の男は一本の木を植えた。その木を見れば皆が男を思い出すように。トナカイと一緒に毎日木に水を与える。晴れの日も雨の日も風の日も雪の日も。木が山より大きくなった頃男は力尽きた。人々は毎年冬に色とりどりのオーナメントを飾り付ける。てっぺんには大きな星がキラリと輝く。
 
 
148.
クジラの求愛行動は一見の価値がある。オスからメスへの「歌」と呼ばれる様々な周波数の音は、その複雑さ故にフランス語よりも遥かに多くの愛の表現が行われている。一度番いになった雌雄は交尾後に別れるが、数年後に再会をするまで他の鯨と番いになることはない。いつまでも「歌」を覚えているのだ。
 
 
149.
夢でならきっと会える、という考えは甘くて。夢に出てくるのはいつも関係のない何か。いっそ現実の方が早い?けれどもそれは夢よりもずっと遠い。鍵はある、鍵穴もある、なのに扉の場所が分からない。最終通告みたいなセリフだけを残して、あっさりとあなたは目の前から消えた。一体今は何処にいるの?
 
 
150.
突如群青が世界を覆い尽くした。古い言葉で「ショク」と呼ばれる現象。人々はそれを忘れていた。「ヨルが来る」、一人の老人が声を震わせながら言う。空に穿たれた無数の光の穴は、一本の川となって、今にも地上に降り注ぎそうであった。自転の止まった世界の上で、人々は原始の恐怖を思い出していた。
 
 
151.
港へと続く遊歩道の上で瓦斯燈は青白く燃える。隣を歩くあの方はきっと幽霊なのだろう。囁く声で語られる愛。明日には消えてしまう現象。有機的な営みから逃れられれば、無機物としての喜びがある。手を繋がせて。想いは霞のように指の隙間から溢れ落ちる。心は鉱石として。蛍石の瞳で見つめ返された。
 
 
152.
書き損じた手紙は次から次へと白い鳩になってゆく。私以外の人が書いた彼への恋文を届けてくれるのだろう。平和な光景。ついでにできの悪いカードマジックを披露しよう。あなたが選ぶカードはこれです。未来を見てしまえば、過去の自分は余りに稚拙。その時々の最善手がその場しのぎに思えて仕方ない。
 
 
153.
ムダ毛を剃ります。大変です。女の子だから仕方ないです。ムダ恋も剃ります。不毛です。千年後には日本人はいなくなるそうです。倫理の先生が言っていました。それでもこの恋は無駄でしょうか。分かりません。先日麻雀を覚えました。まだまだムダヅモが多いです。将来は雀士になって男を養いたいです。
 
 
154.
蜘蛛を殺してまた天国が遠くなったと嘯く。無神論者気取りの臆病者。前にも同じようなことがあった気がすると言うと、これで三度目ですと。仏の顔は何度だっけ。まあいいか。蜘蛛の糸にぶら下がって天国に行く体力はなさそうだし。でもそれ、毒蜘蛛ですよ。わっと蜘蛛の子が腹の上で散り散りになった。
 
 
155.
宇宙ではどんなに大きな声で愛を叫んでも聞こえない。当たり前だ。空気がないから。では、宇宙人はどうやって愛を確かめ合うのか。身振り手振りか。ここぞとばかりに、大きく、大きく手を振る。肩が外れるくらい大きく。救難信号みたいに。助けてほしい。見えているだろうか?どうしても、宇宙は遠い。
 
 
156.
君のヒーローになりたくて筋トレを始めた。馬鹿なのに本を読み、食事にも気を使う。酒も煙草も女遊びもやめた。でも君は思った以上に強い人で、ヒーローは不要みたい。案外僕を変えた君がヒーローなのかもしれない、なんて。そして今日も世界は平和。屈折した思いの中で、僕は悪の出現を待望している。
 
 
157.
ノートに書き続けた「正」の字。そろそろ1万日になる。「正さ」って誰かが担保してくれるわけじゃなくて、随分と遠い国の言葉みたいだ。一生懸命消しゴムを当てる。ノートが見る見るうちに真っ黒になっていく。2000個分の「正」の字を消して、私はもう幼い真っ白に戻れないことに気が付いた。#twnovel
 
 
158.
山で死ぬのってどんな感じだろう。憧憬。土の中で微生物が私をゆっくり分解していく。同時に私の意識も徐々に分解される。醜く腐ってゆく私。自意識の塵が山の隅々まで散っていく。無になってしまいたいのになれない。微睡みの中を彷徨っているような感覚。誰も知らないけれど、私は確かにそこに居る。
 
 
159.
重力子の発見で世間が沸く中、私は双子の素粒子の観察をしていた。原子核の中で同じ挙動をする二つの素粒子。同時に発生して、同時に消滅する。お互いに影響し合い、常に力を打ち消し合うため、普段はその存在を誰も知ることができない。ひっそりと生き、死んでいく、慎ましやかなモノたち。#twnovel
 
 
160.
パンがなくなった。指を舐める赤子は、教会で見た壁画に描かれている天使に顔が似ている。まだ肉は食べられないが、あと三年もすれば指を食い千切るだろう。これも愛なのか。私に愛を説いてくれた神父様は、私と無理やり行為に及んだ。自分の肉をパンと呼んだあの人は、十字架にかけられ沈黙していた。
 
 
161.
赤い椿は好きではない。散った後の花弁が血のよう。白の方が良い。ただ家庭のエネルギーはあなたの頑張りから供給される。ガスはあなたの酒臭い息だし、電気はあなたの痛みの神経パルス信号だし、水道はあなたの汗と涙だ。でも、もっと頑張って。あなたの肉を使って、庭に白い椿を植えさせてください。
 
 
162.
10回目くらいの非常ベルを鳴らす。集まる近所の大人達。「またあんたか」という声と、「すみません、娘が悪戯しまして」と応える父の声。大人達が去って行った後、父が無表情のまま私を見下ろす。最後のチャンスだった。次はないだろう。みんな自分の非常時だけを気にして、他人の非常時には無頓着だ。
 
 
163.
非常ベルを思い切り鳴らす。集まる看守達。「またお前か、悪戯が過ぎるぞ」と言う看守の顔は油断し切っている。「次やったらただじゃおかんからな」と言いながら去る看守達。大丈夫。次はない。今の騒ぎに乗じて、仲間はみんな脱獄しただろう。あとは私が牢屋の中に掘った抜け道から脱出をするだけだ。
 
 
164.
ビーカーの側面に先週の合コンが映る。まさか一瞬でも誰かとの未来を想像する日が来るとは思わなかった。だけどそれは本当に一瞬のことで、アセトンで超音波洗浄をしてしまった。「それって何の役に立つんですか?」、と無邪気な顔で言われた。その通りだ。俺は世の中の何の役に立っているのだろうか。
 
 
165.
ホワイトバランスを調整した。現実世界の色温度が変化する。虹、でさえも。生まれた時は色を知らなかった。ネコも知らない。コウモリは僕の知らない世界を見ている。瞬きをして、何度も何度も焼き付けていく、景、色。優しさに形があるのならば、君のそれは、色も匂いもきっと涙に似ている。#twnovel
 
 
166.
70億人分の孤独を癒やすためには、70億個のシュークリームが必要だろうか。案外1個で済んだりして。無理だ。食べ物だって、水だって、石油だって、鉱物だって、奪い合って生きている。僕らはそうやって生きている。だからせめてこの11個のシュークリームは君ときちんと分けよう。君が5個で僕が6個だ。
 
 
167.
なぜ見えているものが全て正しいと思う。人間の感覚はいい加減なもので、それは錯覚について調べればすぐ分かるよ。みんな自分の見たいものしか見ないんだ。減量中のボクサーは水が垂れる幻聴が聞こえるし、心霊スポットで見るお化けはその人が見たいお化けだ。でもどうして、僕の視界に君は現れない。
 
 
168.
俺が信じてるものは科学だけだ。神という居るか居ないか分からない存在に、全てを委ねるなんて到底できない。聖書?古代人の狂った妄想だ。それだけ不信心なためか、ある日凶弾に倒れる。しかし科学を信じていて助かった。左胸のポケットに入れたワームホールが、銃弾を別の空間へ飛ばしてくれたのだ。
 
 
169.
何でもない電柱に花を供えていると、そのうち交通事故死した幽霊の噂が立つ、という実験がある。僕は軒下にツバメの巣を作った。何も知らない親子がツバメの子供がいるんだねと話している。立ち止まる人が増えた娯楽のない街だが、渡りの季節には人々は忘れ去っていた。そして春、僕は雛の声を聞いた。
 
 
170.
石につまずいて頭を打ったら転生していた。周りの人達に「救世主の生まれ変わりだ!」と言われる。よしてほしい。前世はただのしがないサラリーマンです。今更言い出しづらいが嘘は嫌なので、正直に話す。すると一人の男が「知っております。あなたは頭を打ったあと能力に目覚め、世界を救ったのです」
 
 
171.
コールセンターの業務を始めて10年が経つ。神父も殺人者もメンヘラも宇宙人も、ありとあらゆる電話を受けて来た。恐らく、世界中の人と会話をしたはずだ。みな一様に現世のクレームを言うので、辛抱強くそれを聞き、お詫びと代替案の提示をする。納得したかは分からないが、代替案の死を誰も選ばない。
 
 
172.
コールセンターの業務を始めた。色々な人達が電話をしてくるが、みな開口一番「死にたい、助けてほしい」と言う。残念だがその二つの願いを同時に叶えることはできない。自殺者は救えないから。そう伝えると、決まって「では後者を」と。死にたいほどの苦しみの中で、神も死後も信じているのが泣ける。
 
 
173.
嫌いな食べ物、私のそれはキノコだ。見た目も味も匂いも食感も。夢でキノコ怪人に襲われたこともあるし、付きまとってきた男はマッシュルームカットだったし、私の胞衣を埋めた上にはキノコが生えてきた。だから今遭難している山の中で、目の前のキノコを食べるかどうかは悩んでいない。悩んでいない。
 
 
174.
子供達から球根を手渡された。それで、復讐が始まったことを知る。思えば何かを育てるというのは生まれて初めてだ。命、こんなにもちっぽけなのか。私も含めて。今までやってきた、生きるための行為が嫌でも思い出される。それでも力強くて、長い冬を耐え、春に花が咲けば、私の贖罪は終わるだろうか。
 
 
175.
流行っていない動物園だったが、何故かハシビロコウが展示されていた。僕はその大理石の彫刻のような鳥を眺めに、月に何度も動物園へ行く。ずっと見ていても飽きない、哲学のような鳥。それ自体が哲学なのではなく、それを見ることで僕は哲学を得るのだ。夜のように。夜の孤独は人を哲学者にするから。
 
 
176.
信頼感みたいなもの。一日中動かないハシビロコウも餌の時間だけは多少機敏になる。飼育員の方へゆっくりと近づき、彼の顔をじっと見る。彼も分かっているという風に魚を鳥の口元へ持って行く。その瞬間だけは世界は二人のもので、本当に時間が止まっているようだ。僕はそれを見て嫉妬と羨望を覚えた。
 
 
177.
雨の日の動物園が好きだ。動物達は室内に入ってしまい、檻の中では虚無が展示されている。僕は誰もいない動物園で、一人傘を差しながら虚無を見つめる。同時に虚無も僕を見つめる。檻の中と外は逆転し、虚無は展示された世界を観察する。その内に境界は消え去って、フラミンゴが中心でダンスを始めた。
 
 
178.
モスキート音が聞こえない歳でも不快感はあるのだろうか。見えない何かに攻撃されているというのは如何にも電波。君が大事にしていた砂時計は捨てたよ。もう大人だから。嘘だよ。憂鬱?寒い?低体温症だね。徐々に冷たくなって氷の塊になったら、あのゴミ捨て場に行こうか。子供だった頃の君を探しに。
 
 
179.
怪我をした冠鷲を保護した。後日森へ還そうとするが、野生を失ったらしい。羽を広げた姿が美しく、痛々しい。飛べないのであればいっそ。心を見透かしたのか、覚悟を決めた眼で見つめてくる。僕には出来ない。と、羽ばたき始め空へ空へと飛んで行った。死に場所を見つけたようにどこまでも。#twnvday
 
 
180.
本当に幸せなんだ、と持ち物を全て人にあげてしまった彼が言う。あとは心だけだが、それも既にあげてしまったと。彼の葬式の日、多くの人が参列した。棺桶の中は彼が人にあげた以上の物や花で埋め尽くされる。彼の最後の持ち物の写真を入れて火葬場へ。今頃は天国で心をあげた人と再会していると思う。
 
 
181.
「ドアが閉まります、ご注意下さい」、ギリギリでタイムマシンに乗り遅れる。次に来るのは10年後。満員のタイムマシンを見送りため息をついた。パラレルな世界が作られるからパラドックスはないらしい。違う世界の僕は上手くやっているのだろう。10年か。取り戻せない過去を思いつつ、未来を見据えた。
 
 
182.
遠い星の玉音放送を聞く。人々のすすり泣きと蝉の声。堪え難きを堪え、忍び難きを忍んだ後、放送員の少し甲高い声がした。「辺りは向日葵畑です、一面の黄色です、ここから我々の復活が始まります」 その星の向日葵はどの太陽を向いているのだろう。僕が煙草の灰を落とすと、音声が途切れた。#twnovel
 
 
183.
荊の冠を被った彼の死体像にお祈りする。救い給えと。世界一幸せな人はお祈りをしないのか。もっと幸せを、とお祈りするのか。救えない。なぜわざわざ死に際の姿にしたのだろう。もしかしたらこれが彼の生涯で一番美しい姿なのかも。復活の日に世界中の骸が動き出す、想像すると少し笑える。#twnvday
 
 
184.
その国では若者の間でインコを飼うことが流行っていた。「オハヨー」とか「アイシテル」とか覚えさせて独り身の寂しさを癒やすのだ。だが、高性能なアンドロイドが世に出てからは皆それを購入し、飽きられた鳥達は野へ放たれていった。自然の中で多くの鳥が死んでいくが、生き残った鳥達が復讐を誓う。
 
 
185.
彼女は潔癖症。「空気が悪い、空気が悪い」と言いながらマスクをして掃除機をかける。ほら、窓を開けて。世界と繋がって。自分の二酸化炭素を吸わないで。僕の言葉は黙殺される。世界も家の中も空気が悪い。彼女はその内、掃除機を使って核爆弾の製造をする。「空気が悪い、空気が悪い」と言いながら。
 
 
186.
その長い睫毛と吸い込まれそうな瞳は、なぜか水族館を思い出させた。友達であればそのままアプローチしただろう。兄妹であれば諦めただろう。でも彼女はどうだろうか。この感情の取扱説明書はどこにもない。幼いままなら良かった。来年また出会う時、彼女がこれ以上大人になっていないことを僕は祈る。
 
 
187.
排気システムが壊れ、室内の二酸化炭素濃度が上昇していく。私自身から排出された毒素で、私自身が汚染される。急いでこの毒を室外に排出する必要があるが、意識が朦朧として体が動かない。生憎両親も妹も、来月まではこちらには来ない予定だ。宇宙に引きこもって五年、この結末は予想していなかった。
 
 
188.
蜜柑が好きなんですけど不器用過ぎて皮を上手く剥けないんです、そう言うと彼は、そうみたいだね、と言って私の頭についた白い筋を取ってくれた。恥ずかしい。僕も冬は箱ごと買って炬燵でずっと剥いてるよ、その彼の姿は容易に想像できる。私がその隣にいられれば。今年の冬はきっと暖かい。#twnovel
 
 
189.
その店の名物は悪魔の素揚げだった。活きの良い悪魔を地獄より熱い油でジュッと揚げてしまう。しかし、店主の最近の専らの悩みは、良質な悪魔が捕れなくなっていることらしい。悪魔も小さな悪事しか行わなくなっていて、小物しか捕れなくなっている。中には偽物もいるようだ。世界が平和な証拠だろう。
 
 
190
今年一番どころか今世紀で一番寒い。扉は凍りつき、街は真っ白に覆われ、ライフラインは全て閉ざされた。政府は打開策として、忘れられた冬眠を国民に行わせることにした。暖かくなったらまた会おう、そう言って眠りにつく人々。それが長い冬の始まりだとは誰一人として気付いていなかった。#twnovel
 
 
191.
風が強い、今日
上昇気流
みんな
空へ、空へ
洗濯物
下着
看板
木の枝
食べ残し
テストの答案
見積書
給与明細
 
そう言えば空は寂しい
 
空にあるもの
太陽
飛行機
葉っぱ
花びら
UFO
幽霊
真空
寂しさ
 
空にないもの
人間
コンビニ
飛び魚
電柱
鉄塔
火葬場
お墓
あと君
 
 
192.
ドアーを開けるたびに違う世界へ繋がるのではないかと思っている。旧校舎の三階教室、会社の地下倉庫、デパート八階のレストラン街、不審がられながら見かけた扉をそっと押す。半ば期待、半ば諦めの気持ちで。だけど全くの勘違いだった。異世界への道は扉ではなく奈落の穴で、それに気づいた時私は深い
 
 
193.
泥を体内に飼って一週間となる。時折暴れ出し、その度に抑え込むのに苦労をする。奴は眠りを欲している。陸上では尚更だ。しかし、私には起きて、やらなくてはいけないことがある。食べ物を買う為に仕事をせねばならない。子孫繁栄の為に性交をしなくてはならない。奴のようにずっと寝てはいられない。
 
 
194.
ストーブに火が点かないので、多分灯油がなくなった。山を二つ越えて買いに行く必要があるが、もう夜も遅いから店はやってないだろう。身の回りの物を片っ端から燃やす。手紙も本もインターネットも。お母さんの志願は丁重に断る。ああ、山を吹く風が「さようなら」と聞こえて、もう年は暮れていった。
 
 
195.
僕は君の言葉が分からない
だけど君の顔は分かる
だから君の事は分からない
 
君も僕の言葉が分からない
だから僕の顔は分からない
だから僕の事は分からない
 
僕は君を見ると安心する
君は僕を見ると恐怖する
 
言葉がなければ
僕ら分かり合えただろうか
 
言葉がなくとも
僕の気持ちは伝わるだろうか
 
 
196.
案山子の仕事をクビになった。目立たない私が出来た唯一の仕事。鳥とお喋りしたり、米を食べないように頼んだり、少しだけ食べさせてあげたり。そんな日々が懐かしい。冷酷な機械の案山子にできない仕事だが、効率が優先された。ゴミ捨て場から見る空の色は何も変わらないのに、どうしてか淡く見える。
 
 
197.
一周回って地球が女の子に見え、そのスカートを捲ってしまいたい。輪郭をなぞるとそれは完全な丸であり、しかし中身を知ることは誰にもできない。彼女がスカートを翻すと、白い波しぶきが上がって僕の顔に掛かった。その水を舐めてみると酷くしょっぱくて、僕は官能的な気分になっていった。#twnvday
 
 
198.
もう何もかもがどうしようもない
ぼくは洗濯物を干す
何層にも積み重なった雲が遠くに見える
それを一枚一枚ひっぺがせば
青空が曝け出される
青空もかさぶたを剥くようにペリペリっと破って
中から肉塊のような真っ赤な夕焼けを取り出したい
夕焼けも全部取り出してしまったら
あとは夜だけが残るんだ
 
 
199.
月は黒くて全てを吸い込む象徴であった。それ故夜に出歩くのは禁止されていたが、好奇心の強い子供だったのである日黙って家を出た。初めて見る夜は美しい。雲や哀れな鳥や星の光が月に吸い込まれていく。その恐ろしい光景を見ているうちに私も月に吸い込まれ、夜が明るい世界へと来ていた。#twnvday
 
 
200.
自分がサトラレだと信じている女の子がいた。曰く、私の心を知っているから避けられると。そんなことないと言っても信じない。ある日とうとう、貴方の考えが分からないからみんな避けるんだよ、と伝えると、彼女はようやくその心を伝えてくれた。周りは更に避けるようになったが、私達は友達になった。