日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

自分を知る

 自分を知る、というのが存外難しい。無知の知。吾唯足るを知る。
 今まで見てきたことや聞いてきたことが全てではないけれど、それらは自分の中の全てではある。食べたことのない食べ物、読んだことのない本、聞いたことのない音楽、行ったことのない場所、出会ったことのない人、その中に一番好きなものや、嫌いなものがある可能性はあるが、全てを知ることはできない。いやむしろ、全てを知っても結局自分自身のことは分からないのでは、とすら思ってしまう。
 それで学生時代の休みを利用して自分探しの旅に出たり、就活の時に自己分析をしたり、性格診断、血液型占い、今日の運勢、色々なものに手を出して僕らは自分をカテゴライズしていく。でも、本当の自分なんてどこかに本当にあるのだろうか。年収や、年齢、体重や身長や出身地、学歴やフルマラソンのタイムや研究したことや職歴、星座占いや動物占い、それが僕の全てなのだろうか。
 僕は古い人間で、頑固で偏屈で単純で、昔もらった手紙を大事にとってあるし、好きな食べ物は一週間くらいなら毎日食べても飽きないだろうし、初めて食べたローソンの肉まんの味に感動して、今でもコンビニの肉まんの中で一番好きなのはローソンのだし、チキンはファミマのものが一番好きだ。四国を旅行している時に河原で見た月食が忘れられないし、その感動を共有したくて、また同じように何時間も電話をしてしまうだろう。四国旅行は初めてした一人旅だったから、四国は結構好きな地域だ。また旅をしたいと思う。陽だまりで微睡む野良猫を見るのが好きだし、彼らが心地よくなる場所を知っていることがとても羨ましい。何でもないことや、どうでもいいことを、普段は忘れているくせに、ふとした瞬間に思い出してしまって、とても嬉しくなってしまう。昔はトマトが嫌いだったけど、今では食べられるようになった。梅干しはまだ苦手だけと、食べようと思えば食べられる。円周率は50桁まで覚えたし、カラマーゾフの兄弟も新訳で読んだ。いくつか覚えた星座の名前や、それにまつわる神話は忘れてしまったけど、小さい頃に夢中になって読んだという記憶は残っている。好きなものや嫌いなもの、それを全部ノートに書き出して、多分それは僕ではないけれど、僕が知りたい僕は、あなたに知ってほしい僕はそういう僕なんだと思う。
 過去を懐かしむようになった。歳をとった証拠だろう。捨てるということも、よく考える。自分が持てる物の大きさも何となく分かるようになった。でも、今日は昨日よりも良い日で、明日はもっと良い日だろう。それを願っている。
 
 刺さった槍は、きっと今も揺れている。
 

ベルリン・天使の詩」 わらべうた 原詞 ペーター・ハントケ

 

第1章

子供は子供だった頃

腕をブラブラさせ

小川は川になれ 川は河になれ

水たまりは海になれ と思った

子供は子供だった頃

自分が子供とは知らず

すべてに魂があり 魂はひとつと思った

子供は子供だった頃

なにも考えず 癖もなにもなく

あぐらをかいたり とびはねたり

小さな頭に 大きなつむじ(```)

カメラを向けても 知らぬ顔


第2章

子供は子供だった頃

いつも不思議だった

なぜ 僕は僕で 君でない?

なぜ 僕はここにいて そこにいない?

時の始まりは いつ?

宇宙の果ては どこ?

この世で生きるのは ただの夢

見るもの 聞くもの 嗅ぐものは

この世の前の世の幻

悪があるって ほんと?

いったい どんなだった

僕が僕になる前は?

僕が僕でなくなった後

いったい僕は 何になる?


第3章

子供は子供だった頃

ほうれん草や豆やライスが苦手だった

カリフラワーも

今は平気で食べる

どんどん食べる

子供は子供だった頃

一度は他所(よそ)の家で目覚めた

今は いつもだ

昔は沢山の人が美しく見えた

今はそう見えたら僥倖

昔は はっきりと

天国が見えた

今はぼんやりと予感するだけ

昔は虚無におびえる

子供は子供だった頃

遊びに熱中した

あの熱中はは今は

自分の仕事に 追われる時だけ


第4章

子供は子供だった頃

リンゴとパンを 食べてればよかった

今だってそうだ

子供は子供だった頃

ブルーベリーが いっぱい降ってきた

今だってそう

胡桃を食べて 舌を荒らした

それも今も同じ

山に登る度に もっと高い山に憧れ

町に行く度に もっと大きな町に憧れた

今だってそうだ

木に登り サクランボを摘んで

得意になったのも 今も同じ

やたらと人見知りをした

今も人見知り

初雪が待ち遠しかった

今だってそう

子供は子供だった頃

樹をめがけて 槍投げをした

ささった槍は 今も揺れてる

 

「ベルリン・天使の詩」 わらべうた 原詞 ペーター・ハントケ

 

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