日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

バイト日記その1 選挙(だがその2はない)

 先日選挙の手伝いのバイトに行った。このブログを読んでいる人の中には(画面の向こうのあなたです)、選挙のバイトって何やねんって感じかもしれないが、投票会場でアレやコレやする仕事だ。なぜ、今回この労働を行ったかと言うと、純粋にお金がないからである。純粋金銭欠乏症である。お金がないとどうなるか? 人生は無課金では過ごせないようになっており、私の場合は、お金がないといずれ同質量の塩になってサラサラと風に流されてしまう。孟子曰く、水は低きに流れ、人は易きに流れる。万物は流転する。しかし、労働をすればお金を発生させることができる上に、人間としての同定が可能だ。労働という無から、賃金という有が生まれる。プチビッグバンである。すごい。労働が無課金どころかマイナス課金でできるなんて、素敵だと思いませんか?
 仕事内容の詳細を言ってよいのか分からないため言わないが、簡単に言うと、会場で本人確認をしたり、投票用紙を渡したり、人間を会場へ誘導したり、会場から追い出したり、観察したりする仕事である。選挙に行ったことがある人は、椅子に座って忙しなく振動をしている存在を見たことがあるでしょう。あれは大いなるものの一部であり、あの日の私もそうでした。ちなみに、所謂「選挙立会人」と呼ばれる、椅子に座って振動すらしていない人々(しかし近くで観察すると、大陸のように実はゆっくりと移動しているのだ)は、その地区の町会だかなんだかの人がやるらしく、労働の区分ではないらしい。
 この労働を始める前は、『投票率も最近は下がっているらしいし、そんなに人も来ないだろう。座っているだけならめちゃ楽じゃん』と考えていた。もちろん、この考えが間違っていたことを、後に歴史が証明することになる。投票率が下がっているとは言え、それを見越して会場の労働者はギリギリで手配されるし、なんだかんだ何千人もの人々が一日で大挙してやってくるので、映画の「300 〈スリーハンドレッド〉」のようにその全てを対処する必要がある(映画未見)。この日だけで、投票用紙が出てくると同時に機械から発せられる「区議会選挙です」という無機質な声を何千回と聞かされた。これだけで気が狂いそうだ。気狂いピエロ。思考を無にしながら、本人確認や選挙の紙を渡す作業を腱鞘炎になりかけながら行った(仕事はローテンションで回された)。ちょっとでも気を抜くと、意識が飛んで永遠と投票用紙に「マック赤坂」と書く地獄に入り込み、もうこの世界に帰ってこられないような気がしたため、なんとか最後までやり通した。ちなみに、所謂「選挙立会人」と呼ばれる、椅子と机の中間の生命体のような人々は、選挙の始まりから終わりまで永遠に選挙会場をさまよい、座ること以外のことをしたいと思ってもできないので、カーズ様のように考えるのをやめることとなる。彼らは人間が紙に鉛筆を滑らせ、その紙を箱の中に入れる作業を一日中眺めることになる。村上春樹ねじまき鳥クロニクルの主人公のように、一日中新宿駅の前で人の流れを見ている行為に近い。いくら座っているだけとは言え、私にはちょっと無理だなとこの一日で感じた。めちゃくちゃ楽とか思っていてすみません。
 
 まあ、なんだかんだ一日を終え(朝6時半集合だったため4時半に起き、会場の後片付けを含めて終わったのが21時)、色々と良い経験になったなと感じた。賃金は三分の一で良いから、拘束時間を半分にしてほしいと思ったのは内緒だ。
 選挙に来る人達も、選挙に行くと思っている時点で民度が高いのか、私が多少受付でもたついてしまっても、怒鳴ったり殴ったり地下送りにしたりせず、「お疲れ様」と声をかけてくれた。何気ない人の優しさに、ふと涙が零れ落ちた。
 
何が どうしたの わかんない 聞きたくない
クツが 片方 どっかに 消えた
俺は どうする どこに 行こう
でもね 本当は 本当は
 
朝になってた カラスの親子 呼び合ってる
俺はちょっとだけ 嬉しくなって 立ち上がる
 
涙がこぼれそう でラブコール あの娘にラブコール
涙がこぼれそう でラブコール あの娘にラブコール
 
『涙がこぼれそう』/The Birthday 

 

 若い人は全然来ないと思っていたが、そんなこともなかったし(我が事感があるためか、小さい子供を連れた夫婦が多かった印象)、18歳くらいの人も結構来ていた。ただ、投票率は50%を切っているというのは事実としてあって、若者たちをどうやって選挙に行ってもらうか、というのはこの先の課題であるとは感じる。
 思うに、現状選挙に行かない人は、きっと齢をとっても行こうとは思わないだろう。選挙に行くという行為に価値を見出だせないからだ。しかし、この先老人が死に、選挙に行かない若者たちが齢をとっていき、若者の数も増えないと思うと、今選挙に行っている人たちの一票の価値がどんどんと重くなって、選挙に行く人が有利な国になっていくと思う。その時に、今まで選挙に行かなかったことを嘆いても遅い。現状は選挙に行くことに価値を感じなかったり、選挙に行っても何も変わらないと思ったりするのは、確かに私も同意をしたくなるが、ひとまず行くという習慣はつけておいた方が良いように感じた。地方選挙なんかは結構票が拮抗しているので、自分の一票が政治を左右しているのをひしひしと感じることが可能だ。期日前投票も、実は2003年に始まった比較的最近制度で、また手ぶらで行ってもその場で住所確認をしてくれて投票が可能で、選挙がしやすい体制は徐々にできているのではないだろうか。そのうちネットで投票することも可能かもしれないが、一般人が政治に関われるのは本当に選挙くらいだから、特に気負いをせず、政治に関心があるという意識を高めるためだけでも、選挙に行かない人は、今度の夏の参議院選挙に行ってほしいと思う。