日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

灯里

「灯里先輩!」
私を慕う小さな女の子
いつも膝小僧に絆創膏を貼っている
可愛い女の子
 
学校に行く電車で
ふと目についた
睫毛の長い肌の綺麗な子
膝小僧から血を流していたから
気まぐれで絆創膏を渡した
犬のように喜んで
聞いてもいないことを
ベラベラと喋り出した
 
同じ学校の後輩で
本当にドジで
何でもないところで転んでいた
危なっかしいから
いつも一緒にいた
転んで膝が擦りむく度に
絆創膏を渡してあげた
だけど決して痛がらず
泣かないで
白い歯を見せて笑っていた
 
卒業前に
護身用にと
自動小銃を渡した
何を勘違いしたのか
「私、この銃で先輩とお国を護りますね!」
とその場で宣言した
止せばいいのに
「ああ、頼むよ」
と呪いの言葉を吐いてしまった
 
そのうちお互いに忙しくなり
連絡も疎遠になって
私は結婚をし
彼女は軍隊に行った
あんなに毎日一緒にいた存在が
思い出さない日が出てくるほどになった
 
ある年の冬に
彼女の死をニュースで知った
知らない国の言葉が流れる
スマホの画面の向こうで
彼女の頭は吹っ飛ばされていた
国が支給した自動小銃を担ぎ
膝小僧はズボンに隠れていた
最期の時の彼女の表情は
分からなかったし
彼女が自分のドジで撃たれたのか
それとも単に運が悪かっただけなのか
それも分からなかった
 
どうして私は
そばにいてあげられなかったのだろう
どうして私は
彼女の吹っ飛ばされた頭に絆創膏を貼ってあげられなかったのだろう
後悔の感情は
もちろん空しいだけで
ただ彼女を助けられなかったという
独善的とも言える考えだけが
神をも恐れぬその傲慢な考えだけが
私を支配していた
 
後日彼女の遺品が届いた
小さなピンクのタブレットケースの中には
黒い血の跡が付いた
ハローキティの絆創膏が一枚あった
私があの朝初めて彼女に渡した
絆創膏だった