日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

写真

 
 以前書いた文章が発掘されたので、少し体裁を整えた。
 

 

  昔、もう5,6年前に撮った一枚の写真をなぜか捨てることができずに持っている。携帯で撮った写真は「写メ」と呼ばれて画質がとても荒く、デジカメが普及し始めた時代だ。この写真もデジカメで撮ったものを現像したのだろう。

 季節は冬のまっただなかという時期で、時間は夕方17時くらいだろう。辺りは暗く、空気は透明な色をしている。写真からでもそれは分かる。
 景色は何の変哲もない街中の道路だ。両脇に、スーパーやら居酒屋やら小さなボーリング場やらが並び、店の前には電柱が等間隔で立っている。電柱には近所の獣医の案内の看板が貼り付けられている。
 写真の中心にいるのは、男が一人と女が二人。女二人は何やら話しているようだが、後ろ姿しか写っていないので、その表情は読めない。
 男は女二人組から2mくらい離れたところを歩いていて、自分の左斜め上を眺めている。しかし、その視線の先には、何も写っていない。男の横顔は確認することができて、そこには少し笑みが見える。まるで、待ち焦がれた冬を たった今手渡されて、それをポケットに入れて大事に持ち帰るかのような表情だ。
 この三人は当時のバイトの同僚である。何でこんな写真を撮ったのか、しかも消去せずに残しているのかよく分からない。本当に何の特徴のない写真だ。それが写し出している街と同じように。ただ奥行きがある写真で、道の先の方まで何があるのかが分かる。道の突き当たりにはパチンコ屋のライトが煌々と照っている。それだけだ。何の意味もなく、何となく撮って何となく残した写真だ。
 思うのは、少し寂しい写真だなということ。そして、この時は確かこのバイトを結構楽しくやっていたこと。大学時代。彼女はいなかった。恋もしていなかった。ひたすら狭い世界で狭い考えで、小さな満足感だけで充分だった。
 実のところこの三人の名前が今何をしているかなんて全く知らない。名前も忘れてしまった。僕が勝手に切り取った瞬間に生きる三人。幸せでいるといいのにと思う。幸せでいて欲しいと思う。僕が今できることは祈るという、とてつもなく後ろ向きな行動だけだ。
 
 写真は今探したけど見つからなかった。絵だけを何となく覚えている。だからこんな文章を書いた。写真は時に人を救いようもないくらい感傷的な気分にさせる。