日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

理由

僕には
生きるべき理由がない
死ぬべき理由もない
あるのは
書きかけの小説
読みかけの詩集
締め切りギリギリに出した短歌
明日の分の生活費
 
明日なくなったら困るものがないっていうのは
生きるべき理由がないってことかもしれない
明日なくなっても死ぬことはないだろう
仕事や電気やガスや家や金が
明日なくなっても死ぬことはないだろう
そうやって失ったら死んでしまうものがないということが
そのまま生きるべき理由がないことにつながるんだ
 
生活に追われるというのは楽なもんさ
積み木で積み上げたビルディングみたいに
そいつを崩すのは快楽だけれど
一度手にした安定を手放すのは惜しい
苦しい、苦しい、と思いながら
生活の奴隷になってしまえという
誘惑と闘っている
 
何かに負けた気になっていて
いつの間にか勝負に巻き込まれて
一体何と闘っているのか
もし僕の中に
温かな血が流れていなくとも
僕は真っ赤な夕日に涙することができるだろうか
僕の中にある
悲しみや
喜びは
嘘っぱちにはならないだろうか
 
僕のこの
生きなくてはならないという
確信めいた幻想の
源泉は何なのだろうか
生物としての本能が
理性を上回っていて
自ら死を選ぶことができない
 
そうして未だ聞いたことのない
潮騒の思い出が
内に残り続けている限り
僕は生き続けるのだろう
この肉体が
ホルマリン溶液に漬けられて
皮膚がじくじく沁みてきて
思わず流した涙が
海へと還っていく時に
僕は海に生まれてしまったことを嘆きながらも
母の胎内から
この世界へと飛び出そうとした
その生きようとした強い決意を
やっと思い出すことだろう