日々のこと

I'm becoming this all I want to do.

新宿を歩いてしまって

 新宿を歩いてしまって、ビルの二階に金貸し業者が、三階に不動産屋が入っていることに気がつく。三階で不動産を買うためのお金を、二階で借りることが出来るのだろう。よく出来ている。幽霊の住む物件を紹介してくれる不動産屋もいるらしいけど、会ったことはない。
 地上を歩いて新宿三丁目から新宿駅に向かう時、坂がだるいなあと思ってしまう。反対側の道路に渡ればエスカレーターがあるので(NEWoManの方だ)、信号待ちをする。南口の広場のエスカレーターは、夜は止まっていることが多い。なぜだろう。実は道路の下に小さなトンネルが通っているから、信号待ちはする必要は本当はない。一度だけ夜に通ったら、ホームレスの人が寝ていた。幽霊はいなかった。
 喧嘩が強いことを自慢するクラスメイトはいなかったなと思う。というより、喧嘩をするようなクラスメイトがいなかった。私立の進学校だったから、まあそうだよね、そうなのかな。尾崎豊の「卒業」みたいな世界ではなかったなあ。ただ、窓には鉄格子が取り付けられていた。外から中を守っているのか、中から外へ出ることを防いでいるのかは分からない。人間を思い切り殴ったことはないし、殴られたこともない。幽霊ならばどうだろうか。人混みを歩くのが怖い。肩とかぶつかって、因縁をつけられたらどうしよう。
 でも、これだけ人が多いと、幽霊が紛れ込んでいても分からないだろうな。幽霊は歩きスマホをしているから、ぶつからないように、こっちから避けないといけない。こっちが歩きスマホをしていたら、お互いにぶつかったことに気づかないだろう。幽霊が私を通り過ぎて、何となく寂しい気持ちになって、未読だったメッセージが読まれる前に消えてしまい、カメラロールには撮った覚えのない写真が追加される。だけど、もし相手が人間だった場合、ぶつかって因縁をつけられるのが怖い。喧嘩をして勝てる自信はない。そもそも、喧嘩なんてしたくない。だから、真っ直ぐ前を見て、人混みの中をスイスイと歩いていく。相手が歩きスマホをしていたら、こっちから避けてあげる。そうやって歩いていると、私はこの街で幽霊になることが出来る。新宿を歩き切ることができる。